しゅかゆづ短編集 1

 今にも寝落ちしそうなほどなのに、「眠くない、寝たくない」と言って、やっぱりうとうとしている。
 弓弦がそうやって最大限に甘えてきてくれるから、朱夏はニヤけっぱなしだ。かわいいかわいいと繰り返すあまり、もはやそれが語尾のようにすらなっている。

「うー……しゅか……おきて」
「起きていますよ。弓弦、可愛いですね」
「まだ、ねないで。僕と……おはなし……」
「ええ、起きていてやりますよ。可愛いですね、弓弦」

 ベッドの中。
 弓弦はうつらうつらしすぎていて、とても話をできる状態ではなかったけれど。彼が眠ってしまうその時まで、朱夏はきっちり起きているに違いない。
 朱夏は弓弦を抱きしめる。その細い背中や長めの髪を、愛しく愛しく撫で続ける。
 たまに、しゅか、と舌足らずに呼ばれたら、たまらず笑みを深めながら、「はい、貴方の朱夏ですよ」なんて答えて。

「……すき」

 弓弦の、ちいさなちいさな声。はちみつがホットミルクに溶ける瞬間のような微笑み。
 それはもうたいへん可愛らしくて、愛おしくて、朱夏は眩暈すらおぼえた。
 いっそ壊してしまうくらいに抱きしめる腕の力を強めたいとすら思った。それほどの衝動があった。
 何よりも愛おしくて大切な弓弦に、そんなことは、決してしないけれども。


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