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しゅかゆづ短編集 1

「弓弦、今日、これをもらいました」
「……。どうしてカニカマを?」
「かにかま」

 そんなわけがあって、僕は、サラダを作っている。
 作る、なんて大袈裟なくらい、簡単なものだけれど。
 深いボウルに生野菜をいれて、朱夏が職場からもらってきたカニカマを細く裂いて、野菜の上にちりばめていく。
 ただ、それだけ。

「…………」
「……朱夏、楽しいの?」

 ただそれだけの工程を、朱夏はまじまじ眺めていた。
 僕を背後から抱きすくめて、僕の肩越しに。
 邪魔ではないけど、少し動きづらい。カニカマを裂く指先に視線が集中しているのを知り、ちょっとだけ手が震える。

「楽しいというか、飽きないですね。貴方の手、とても綺麗で」
「カニカマを見ているんじゃないのか」
「見てはいますよ。赤いなあって。でもほら、中身は白いでしょう? 貴方の肌の方が、白くて好きです」
「そ……そう……」

 カニカマと比べられても。
 呆れたけれど、朱夏は真剣な様子だった。だから、何も言わないでおいた。
 それにしても、大量のカニカマだ。どうしてこんなに。朱夏の職場にいる誰かが、カニカマを余らせてしまったのだろうか。……よくわからないけれど。
 考えていても、仕方がない。

「あ、俺、おぼえてますよ」
「うん?」
「こういうものは、ごまだれ。でしょう?」
「……ふふ」

 突然なにを言い出すのかと思ったら、そんなこと。
 確かに僕は、ごまだれドレッシングが一番好きだけど。
 覚えていてえらいでしょ、と朱夏が笑うから、ついつい僕も笑ってしまう。

「正解。朱夏」
「はい。弓弦」

 軽く振り向く。朱夏が、すぐそこで待っている。
 彼のくちびるに、正解のごほうびの口づけをした。
 それも、そんな大袈裟なものじゃない。なのに、朱夏はとても嬉しそうにしてくれる。僕が、戸惑うくらいに。

「あ……。朱夏、っん」

 もっとほしいと求めてくる朱夏からのくちづけを、彼の好きにさせながら――。
 ああ、すこし、カニカマに色が似てるかも。なんて。
 朱夏の赤い髪を横目に、ぼんやり思ったりした。


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