しゅかゆづ短編集 1

「好きですよ、弓弦」

 朱夏の甘いささやきと抱擁を受けながら、弓弦はふいに不安になる。
 たとえば、一年後、または二年後。朱夏の溺愛っぷりは、いつまで続いてくれるのだろうかと。
 弓弦は自分に自信をもてない。
 いつ朱夏に幻滅されるかと、それが恐ろしくて仕方がないのだ。

「百年でも、千年でも、貴方は俺だけの弓弦です」
「……僕の心でも読んだの?」
「? なんですか?」
「いや……なんでもないけれど」

 弓弦は、ただ、黙っていただけだ。
 それなのに、答えをもらう。他でもない朱夏自身から、弓弦が一番ほしい答えを。
 驚きも照れも通り越し、怪訝に眉をひそめれば、朱夏はきょとんと首を傾げる。
 弓弦は知っている。朱夏は、弓弦に嘘をつかない。彼はひとの姿をした龍神だから、もしかすると、弓弦の心も読めるのかもしれない。
 けれど、朱夏はそれをしない。弓弦のために。
 弓弦は、朱夏にだけなら、そういうことも信じられる。
 ある意味では、盲目的なほどに。

「……朱夏。僕は」
「はい」

 一年後も二年後も、その先も。ずっと朱夏が好きで、ずっと一緒にいたい――とは、素直に言えずに。

「……貴方のコーヒーが飲みたい」
「コーヒー。もちろん、良いですよ」

 ふわりと笑い、美味しく作ってやりますと頷いてみせる。
 そんな朱夏の腕の中。弓弦は、彼の胸もとに、甘えるように顔を埋めた。


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