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しゅかゆづ短編集 1

 ……起きなきゃ、と思うのに。せっかく瞼を開けても、またすぐに落ちてしまう。
 どうしようもないくらい眠い。どうしてだろう。どこかから雨の音がするから、それのせいなのかも。

「うー……」

 呻く声というより、喉で鳴らすただの音。
 ごしごし、瞼をこする。起きなくちゃ。起きて、朝ご飯を作って。朱夏が仕事に行くのを見送ってから、またちょっと眠ればいい。
 頭はそこそこ動くのに、……眠い。

「弓弦、寝ていていいですよ」

 すぐ近くから、声がした。朱夏は微笑んでいる。見なくても、その声でわかる。
 朱夏の手が僕の頭を撫でる。指先で、僕の髪をくるりといじったりして、あそぶ。

「天気、悪いですし。それに」

 ああやっぱり今日は雨なのだ。
 まどろみながら、朱夏の声に耳を傾ける。
 甘やかしてくれるのは嬉しいけれど。でも――。

「昨日、ちょっと無理させちゃったでしょう?」

 …………。
 かあっと顔があつくなる。朱夏が言っているのは、昨日の夜のことで。
 なんだか急に起きる気が失せた。朱夏のご飯も見送りも、べつにいいか。
 朱夏が自分で言っている通りだし。彼はくすくす笑って、僕の頬をそっと撫でてくれるし。
 まあでも、やっぱり、ご飯と見送りはしよう。なんにもないなんて、きっと寂しい。僕にとっても、朱夏にとっても。

「弓弦。はは、可愛いですねえ」
「ん……」

 でもじゃあもう少し。あと五分だけ。
 僕は朱夏の手のひらを引き、自分の頬と枕のあいだに挟む。朱夏のあたたかくて優しい手のひらを頬いっぱいに感じながら、いまだ緩くまどろむ。
 朝いちばんから何か言ってる朱夏のことは、聞こえなかったふりをして。だって、恥ずかしい。でも、嬉しい。
 朱夏はご機嫌に笑っている。目を閉じていてもわかる。だからどうせ、僕の聞こえないふりなんて、ばれているんだろうし。


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