しゅかゆづ短編集 1

 朱夏は、とても大きなハートのかたちを持っている。
 真っ赤なそれを口もとにあてて、ご機嫌に笑いながら、

「貴方の瞳の色です。弓弦。俺はこのくらい、いえもっともっと、貴方が大好きですよ」

 僕の心はじんわりと暖かくなる。
 どきどきと、早鐘をうつ。


 そんな僕だって、ハートのかたちを持っている。
 美しい金色のそれを両手に包んで、すこし、ため息をついた。

(……朱夏の瞳みたいな色。僕だって、朱夏が好き。とても好き、なのに)

 心做しか、朱夏の持っているものよりも、ちいさく感じてしまう。
 ほんの少し。気のせい、なのかもしれない。でも、悔しいような、なんというのか。朱夏みたいに、堂々と誇れない。
 僕だって、朱夏が大好きなのに。
 どうして僕の、朱夏への愛情の証のようなこれは、彼の持つものより小さく見えてしまうの?

「弓弦、なに落ち込んでいるんです」

 俯きがちな僕に気づいた朱夏が、こてんと首を傾げる。そんな気配。朱夏は僕の手もとを覗き込む。僕は、僕の持つハートのかたちを、朱夏から隠したくなった。
 どうしてこんなに小さいんですか、とか。
 貴方にとっての俺はこの程度なんですね、とか。
 ……そんなふうに言われてしまったら、どうしよう。その誤解を、どうやって解けばいい?

「はは、弓弦。貴方も俺のことが大好きですよねえ。絶対負けてやりませんけれど、それはそれとして、嬉しいですよ」

 身構える僕、の。不安で、心配で、面倒なところ――。
 それごと抱きしめ、受け容れてくれるみたいに、朱夏はさらりと言う。僕の朱夏への想いも、ちゃんと認めてくれる。朱夏の想いに負けないくらい、ちゃんと大きくて、色鮮やかなハートのかたちなんだ、って。

「っ……朱夏」
「はい。弓弦?」
「すき」
「ふは、はい、ありがとうございます。俺の方が好きですけどね。大好きですよ、弓弦」

 ……僕だって。負けないし、負けたくない。
 ふたりしていつまでも好き好き言い合ってしまいそうだ。
 だから――ああ、朱夏の影。僕を覆いながら、そっとおりてくる影、彼の唇と優しいキス。とても心地良い。

 今日も引き分け。


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