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しゅかゆづ短編集 1

 僕は、龍神様に溺愛されている。
 自分で言うのもどうかと思うけれど、疑いようがないのだから、仕方がない。
 今も、僕の長めの髪を丁寧に三つ編みにして、

「あなたの髪は綺麗ですねえ」

 と、しみじみ、息をつくのだ。
 それがあんまりにも唇を湿らせる言い方というか、大切な飴玉を舌の上で転がして味わうかのような、じっくりとした呟きだったので、僕は照れてしまう。
 そんな、なんでもない僕の髪を、そこまで褒める必要ないのに。ろくな手入れなどしてないから、枝毛もたくさんで……ああ、だけど。
 そういえば、ひょんなことでこの龍と同棲している今現在、僕の髪は彼にとても大事にされていて、ひとりで暮らしていた頃よりは、だいぶ整えられているんだった。

「俺に髪を触られても、嫌がらなくなりましたし」
「……それは、まあ。そうだな」

 貴方が毎日飽きもせずに触るせいで。
 ぽつり、そんな呟きを、心の中に秘めた。
 僕は他人に触れられることが嫌いだ。ちょっとしたコミュニケーションでも、すれ違いざまに肩やらがぶつかってしまっただけでも、ゾッとする。
 吐き気や眩暈に襲われるほど嫌いなのに、この龍にだけは、髪も肩も平気だ。それは、まあ、まったく遠慮せず、僕にべたべた触れるこれに、半強制的に慣らされたところも大きいけれど。

「よし、できました。ねえ弓弦」
「……、なに、朱夏?」
「あなたは今日も可愛いですね」
「…………」

 ああもう。なんて顔で笑うんだろう。その声だって、ふわりと綻ぶ表情と同じ、やわらかくて優しい音。
 惜しみない直球の言葉が、僕の心を掻き乱す。僕はそっぽを向いたまま、背後の朱夏を振り返れない。
 彼の金色の瞳に捕まったら、多分、駄目だから。なにがどう駄目なのか、自分でもよくわからなかったけど。

「髪、ありがとう」
「どういたしまして」

 背中から、抱きすくめられる。
 その腕にそっと触れて、自分の身を預けるみたいに、軽く寄りかかる。
 ……僕は。自分で言うのもどうかと思うけれど、朱夏というこの龍神様に、溺愛されている。
 彼のその指先は、いちいち僕に心地良さをくれるのだ。疑念も、嫌悪も、絆すくらいに。

 そんな僕と、ひとの姿に化けた龍神様の一日が、また始まっていく。
 朝ご飯、何にしようかな。


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