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龍神さまと花嫁ちゃん(しゅかゆづ)

 運命は白く、悪意は黒く、縁とは多数の色で成る。
 はさみでちょきんと切るように。あるいは蝶々結びにして。みなづき神社が縁断ち、縁結びに強いのは、そうしてあげたいと願う龍神の花嫁の心によって。

 花嫁。弓弦は、今日も視る。
 願うのは人間だけではない。犬も猫も、鳥も蜥蜴も。魔女からあやかしまで、多くが来る。
 白糸に触れてはならない。泥を吸ったような黒糸を切る。鮮やかな赤糸を結ぶ。――そこからは、本人次第。

「んん……」
「弓弦。頑張りすぎちゃだめですよ」

 訪問者の波が途切れ、弓弦の集中も途切れる。拝殿奥の畳の間、ずっと一緒にいた龍神が、すかさず弓弦を抱きしめた。

「朱夏」
「お水飲みましょう。ほら、のんびりしてください」
「うん」

 ひょいと座らされ、弓弦は朱夏の膝の上。彼の腕の中、その言葉に甘えるまま、ふう……と肩の力を抜く。
 どこからともなく透明なグラスを喚び出した朱夏――グラスのなかの透き通った水。朱夏は水をくちに含み、弓弦にそっとくちづける。

「ん……ん、」

 優しいキスに、朱夏の熱を抱いた水。こくり、こくり、飲み込みながら、朱夏とのキスにふわふわとして。やがて離れてゆくくちびると、朱夏の花開くような笑み。

「今日もよく頑張りましたねえ。後は俺とゆっくりしていましょう」
「……うん」

 弓弦は、ふわふわだ。心地よさに未だまどろみながら、

「もっと頑張る」
「頑張らなくていいんですってば」
「えっ」

 朗らかな晴れの正午。午後からのみなづき夫婦神は留守につき。


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