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龍神さまと花嫁ちゃん(しゅかゆづ)

 龍神の花嫁、末席の神にだって、憂うつはある。だから弓弦はため息をついた――気遣うように揺れる活け花たちには、大丈夫だよと微笑んでみせたけれど。

 なにが憂うつなのか、よくわからないから困っている。弓弦は、いまの生活に、なんの不満もない。龍神の夫と、のんびり過ごす日々。縁切り縁結びのみなづき神社、ここでの仕事……というか。そこまでではない。神さまとしての在り方も、だんだん慣れてきた。
(……思えば、もう、結構永く生きているな)
 もともと人間だった弓弦は、ぼんやり空を仰ぎ見た。夏の近い快晴。体の弱い弓弦は、焼け付くような陽射しが好きではない。暑さに溶け臥せる季節が、またやって来る。

 もやもや、もやもやと心に渦巻く憂うつに、終わりはたぶん見つからない。弓弦は諦め、立ち上がった。畳がほんのちょっと軋み、両親らしいひとと参拝していた幼い子だけが、不思議そうに拝殿の奥を見た。けれど今は、ひとの目に、弓弦の姿は映らない。

 弓弦は歩く。そろそろ、愛しの龍神が――朱夏が帰ってくる頃だ。今朝早く、神さま会議に嫌々出かけていった夫。つかれているだろうから、しっかり出迎えてあげたいのだ。
 おかえりなさい、頑張ってくれてありがとう、と。
(僕、朱夏がいなくて寂しかったのかな)
 ふと、腑に落ちつつもある。


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