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龍神さまと花嫁ちゃん(しゅかゆづ)

 神社の片隅にぽつんと咲いた赤い花が、今日に枯れたようでした。
 暑かったし、寒かったし、雨も降りましたし、それは枯れもするでしょう。むしろよくそんな場所に咲いたなと俺は思っていたんですが、弓弦はとても残念そうです。

「せっかく……きれいだったのに」

 赤も朽ちた花を、いたわるような手つきで片付けてしまいながら、弓弦はしょんぼり呟きます。それを見ていると、俺の心は動きます。こんな花いちりんに哀しむ弓弦が愛おしい。彼女こそ、世界でいちばん美しく咲くひとだと。
 同時に、ぐるぐると様々な感情も胸中に渦巻きました。
 ただの花ごときが、俺の弓弦を悲しませるなんて、と苛立つ気持ちもありますし、その花はちょっと俺の髪に似て赤かったので、そんな花より俺でしょうと嫉妬してしまいますし……。

「弓弦。わかりました」
「うん?」
「ちょっと俺、花になってみますので、可愛がっていいですよ」
「は? 待って朱夏、なんの話?」

 もしかすると俺は花だったかもしれません。いいえ、弓弦のためなら花にもなります。なんていったって、この俺ですから。
 弓弦のため、そしてなにより俺が弓弦に構われたいがため、龍力を集めました。俺の龍神の力は、すべて、弓弦のためにあるものです。

「朱夏、僕、いまの姿の貴方がいちばん好き。なのに、花になっちゃうの?」
「いいえ、そういうことなら」

 貴女の大好きな俺でいたいので、花になるのはやめておきました。
 弓弦が、その細くて可憐な腕を広げ、「朱夏おいで」と笑ってくれたので、俺はとても嬉しくて、めいっぱい彼女を抱きしめました。
 こうして俺は、完全勝利をおさめたのです。


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