みなづき珈琲(仮)

 月末、夜。弓弦は店内のカレンダーに目をやった。三月も、もう終わりだ。この頃の季節は、冬も春もなぎ倒され、夏の気配。

「さすがにまだ早いか」
「なにがです?」
「ううん」

 四季というのは難しい。寒くなったり、暑くなったり。
 ひょこっと弓弦を覗き込む朱夏へ、ゆるく首を振った。思考が移ろう。そう、カレンダーだ、と。
 朱夏がそっと弓弦の手を握った。手をつなぎながら、壁かけのカレンダーに近づく。弓弦は朱夏を見上げ、朱夏は弓弦の頭を撫でた。

「せーの?」
「ええ」
「じゃあ……せーの」

 ふたり。一緒に、カレンダーをめくる。これは弓弦と朱夏のお決まりだ。結ばれてから早数百年、ふたりはこれを欠かしたことはない。
 月の移ろいを寂しく思ってしまう弓弦のため、朱夏が提案したお決まり。ささやかで幸せな。

「四月もよろしくね、朱夏」
「こちらこそ。よろしくお願いします、弓弦」

 笑い合う。視線を絡める。どちらともなくキスをする。
 人ならざる者たちの『みなづき珈琲』は、つねに甘い雰囲気が漂っている。それは、お互いを溺愛するふたりの、はちみつホットミルクのような甘さ。


23/30ページ
スキ