みなづき珈琲(仮)

 世間はいわゆるエイプリルフールで、みなづき珈琲の限られた客人もそれぞれ嘘真を楽しんだりしている様子。
 しかし、水無月夫婦――朱夏と弓弦は、イベント事の冗談だとしても、嘘をつくことは滅多にない。弓弦は嘘が苦手だし、朱夏は弓弦を傷つけてしまうような嘘を絶対に言わないからだ。
「弓弦、愛しています。ここはもう店じまいして、俺とゆっくり過ごしませんか」
「まだだめ。お客さん来てるし、ほら、チマがオーダー取ったっぽい……こらっ、朱夏!」
 今日も今日とて。カウンターの奥の方で、のびのびふわふわマイペースなふたりの世界。いちゃつきの極み。
 みなづき珈琲の数少ない客人は、そのほとんどが常連である。つまり、その場の誰もが、『あの夫婦は今日も絶好調だなあ』と呆れたり笑ったりするのだ。


27/30ページ
スキ