みなづき珈琲(仮)

「やあやあどうも」

 と夏がやって来て、みなづき珈琲店にて『ソーダ雨降り』を飲んだ。

「まぁすぐにギラッと輝いてもいいのだけどね、梅雨の立場も考えなきゃいけないからさ」

 あいつ、真面目で怒りっぽいんだよとぼやく。向かいの席で、「そうですかあ」とチマ小龍。

「そうだ、その梅雨がさ、朱夏龍くんと弓弦ちゃんに、『今年のジューンブライドも準備してある』だって」
「あらあらあ。では、今年も梅雨期はお休みが多くなりますねえ」
「そのみなづき夫婦は――今は自宅?」
「そおなんですよお。朱夏龍様ったら、『今日はその夏だけで手いっぱいです』って。ソーダのおかわりはありますからねえ」
「そうかい、どうもどうも」

 他に客人はいない。みなづき朱夏、弓弦のふたりもいない。夏とチマは、のんびり会話をした。

「相変わらずアツアツかい?」
「ええもう、見守るチマもついつい頬が緩んでしまいますねえ。あの怖い怖い朱夏龍様が、弓弦さんにはふわっふわになるんですよお」
「弓弦ちゃんかわいいよねえ。さらっていい?」
「絶対殺られますねえ〜」

 言う側から、ガラスコップがパリンと割れた。ソーダ雨降りを飲み干したばかりの、夏のコップ。ひと季節と一匹は苦笑する。

「怖い怖い」
「そうなんですよお」

 ガラスコップが割れたのは、朱夏龍からの警告だ。弓弦を溺愛するその龍は、相手が何であろうと容赦などない。『また変なことを言うようなら次はない』、龍の花嫁をさらうだなんて笑い話にならないのだ。

「まだギラついていたいからねえ。あ、おかわりいい?」
「はいはあい。新しいコップも持ってきますねえ」

 そんなこんなあっても夏の機嫌が良いゆえに今日の外界はうだるほど暑い。


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