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みなづき珈琲(仮)

 みなづき珈琲店の窓辺に、弓弦がことりと花瓶を置いた。フラウは何気なくそちらを見る。たまたま、一番近い席。
 小ぶりで細長いガラス瓶だ。真っ赤な薔薇が一輪。フラウは、そっと首を傾げてみる。違和感、というか。なにか、その正体を探ろうとして。

「フラウさん。これは、」

 視線に気づいたらしい。弓弦が、そっと声をかける。フラウの向かい側に座って、むすりとしながら執筆していたレターも、はたと顔を上げた。
 ふたりの魔女。ティータイム中のひと幕。

「今朝、星のかけらが砕けていて……少し、かき集めることができたから」
「だからお水がきらきらしているのね」

 弓弦は頷いた。フラウも納得して、改めて花瓶を見た。レターはすぐに興味をなくしたらしく、ふんと鼻を鳴らすだけだった。彼女らしい、とフラウは微笑む。
 砕けた星のかけらがまざり、薄白くきらきらきらめく水に花瓶。一輪の薔薇。
 フラウは、美しいものが好きだ。魔女であり、趣味の範囲で花屋をしている。いつか星のかけらの名残を見つけたら、私もああしてみよう。素敵なものを見た。そう思った。

「ねえフラウ。そんなにあの花瓶が好き?」
「ええ、好き。そんなに拗ねないで、レター」
「あんなもの壊してやろうかしら」
「それよりレター、お話、書けたの?」
「うー……読んでみてくれる?」

 やきもちなレターがいよいよ頬を膨らませていた。フラウは彼女の扱いに慣れている。「もちろん」と答え、レターのスマホを受け取る。ふたりは魔女だが、ゆえに便利なものはなんでも普通に使う。魔法だって、現代の最先端だって。
 レターが綴った文字列に吸い込まれてゆく、フラウの紫色の瞳。


「弓弦、飾り終わりました? ほら座って、休んで。なにが飲みたいですか?」
「ありがとう、朱夏。ええとじゃあ……はちみつカフェラテ」
「はい。任せてください、弓弦」

 向こうの方から漂う、みなづき夫婦の甘い会話。ちゅ、とキスの音。レターのため息が聴こえる。「まったく相も変わらずねえ」と、うんざりしているのも彼女らしい。
 フラウは、ぱっと顔を上げた。心がきらきら輝いていた。レターが綴る言葉は美しい。それを早く伝えたくて。


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