溺愛しゅかゆづ夫婦 12

 龍の神がいた。

 幾千年と孤独に生きた。

 数多の神の中で最も強いとされるその龍は

 何にも興味を持てなかった。

 人にも命にも神々にも。

 信仰を得ない龍神は

 どれほど強くとも存在しないに相応しく

 龍神池にて溶けるのを待った。

 ゆらゆら、水面の光を見つめながら。

 ――ざぷん。

 ある日、池に、人間が落ちてきた。

 水底へ死にゆく人間は、しっかりと目を開いていた。

 真っ赤に煌めく瞳だった。

 龍神は、その人間に恋をした。

 生まれてはじめて

 幾千年の時を経て

 龍神は『心』を知った。

 ――まばたきほどの時間が流れた。

 初恋心は実を結んだ。

 たったひとりのヒトを愛する龍は、

 その実、最早『神』ではないのかもしれない。

 しかし、龍は幸せである。

 未来永劫の愛を誓い、育んでいる。

 生き返るかわりに不老不死となった、

 そのヒトと共に毎日を歩んでゆく。

 ふたりぼっち、手をつないで笑いあっている。


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