溺愛しゅかゆづ夫婦 12

 弓弦が眠れなくてつらそうだったので、チョコドーナツとホットミルクを用意してあげました。
 今日というか昨日ですけど、仕事帰りのお土産に買ってよかったな。ドーナツも、かわいい弓弦に食べられて、幸せなんでしょうねえ。ですが彼女は俺の花嫁ですよ。たかがドーナツとて、弓弦は渡しませんから。

「なんだか悪いことしている気分」
「貴女はなんにも悪くありませんよ?」
「気分だよ。こんな夜中に、ドーナツだから」

 ぽつんとつぶやく弓弦。ちまちまドーナツをかじっている姿が愛らしい。きっと、一個ぜんぶは食べられないのでしょうね。そうしたら、俺に任せてください。

「でも美味しい。たぶん、貴方と一緒だからだ。ホットミルク、甘さ控えめに作ってくれてあるし」
「わかります? 俺っていい龍でしょう。貴女だけのすーぱーどらごんだーりん、略してすぱどらだりです」
「ふっあはは、すぱどらだり」

 控えめな声で笑う弓弦を見て、安心しました。『眠れなくて』と俯いていた弓弦は、黒雲に隠された月のように、ぼやけて儚い様子でしたから。その憂鬱を拭えて、本当によかった。

「いつもありがとう、朱夏。こんな僕のために」
「どういたしまして。貴女は俺の愛しいひとなので、そんなふうに言わないでください」
「……うん」

 こくり。素直に頷くお利口な弓弦、お皿に残された半分ほどのドーナツ。「それください」と言えば、待っていたとばかりにお皿ごと渡される。

「眠れそうですか?」
「おかげさまで」
「よかったです」

 たったいっとき、そして半分。ですがその間、弓弦に可愛らしくかじられていたドーナツだ。ですからひとくちで消し去ってやりました。
 弓弦は俺だけのひと。


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