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溺愛しゅかゆづ夫婦 12

 ――ぱちん。
 あ。うっかり、深爪をしてしまった。やってしまった、と思っても遅い。ちくりと痛むときがあるのが、地味だけどとても嫌だ。

「深爪ですか」
「うん。……朱夏?」
 お仕事帰りの朱夏に、何気なくその話をした。そうしたら、朱夏は妙に真面目な顔つきで、僕の手を取った。
 切りすぎてしまった爪先にくちづける姿が格好いい。どきりとして、目をそらして、しばらく無言。
「……ん。これできっと、もう痛みませんよ」
「え?」
「貴女の指先、龍の力で護りましたから」
 言われて自分の爪を見てみたけれど、見た目は何も変わっていない。本当に痛くないのだろうか。すぐには試しようもないな。
 でも、朱夏がそう言ってドヤ顔しているのだから、そうなのだろうとは思った。
「いろいろ便利だね、龍の力」
「そうでしょう。弓弦も早く使えるようになるといいですね」
「僕も使えるようになるの?」
「ええ。いつか、神の座につけば。もちろん、俺の花嫁として」
「ふうん……」
 いつかって、いつなんだろう。百年後? 千年後?
 どのみち僕は不老不死だし、朱夏は既に神さまだし、訪れる日はくるのだろう。今はまだ、実感がわかない。自分のことをただの人間だと思っている僕自身がいる。
 ……いいや。そうでもないか。僕は朱夏のお嫁さんだから。その自覚なら、ちゃんとある。
「貴方が使う龍の力って、まるで魔法みたいだね。でも、言うなら……かみわざ?」
「魔法でいいですよ、そのほうが格好いいので」
「こだわりがあるんだ」
「ええ、貴女の心を囚えて離さないように、そういうところはこだわります」
 な、なあに、それ。また突然、へんなこと言っている。
 そんなこだわらなくったって僕は貴方に囚われてばかりだよ。胸のうちで思いつつ、熱くなってゆく頬のいろを気づかれたくなくて、顔をそむけた。
「あはは。弓弦」
 朱夏は楽しそうに笑っている。そうだ、こんなことしたって、どうせつつ抜けだ。わかっているけど。
 貴方の恋の魔法がずるい。
 ごまかすように深爪の先を指でなぞる。朱夏の魔法に護られているらしい僕の深爪。ほんのりと暖かいのがその証拠なんだろうか。


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