溺愛しゅかゆづ夫婦 11
【魔女とお茶会】
僕の行きつけの本屋には魔女の店主がいる。彼女に誘われたティータイム中、呆れた顔でこう言われた。
「毎日毎日、シュカシュカシュカって、飽きないのかしら」
朱夏。僕の旦那さまの話。げんなりした顔の彼女は、龍神な朱夏と仲が悪い。どうしてかといえば、魔女だから……らしい。
思わず頬が緩んだ。この顔、彼女は嫌いだろうなと思いながら、答える。
「飽きないよ。僕は」
「じゃあ、シュカがユヅルを飽きることは?」
「僕を? ……どうだろう」
飽きられたりしたら悲しい、けれど。
「飽きないと……思う。多分」
「ふうん」
彼女はつまらなそうだ。そして、話題に興味をなくしたようだった。
気まぐれなお茶会。
【魔女の惚れ薬】
僕がよく行く本屋の店主の魔女――レターさんが、放り投げるように渡してきたもの。プラスチックの小さな容器に液体が入っていて、
「それ、惚れ薬なのよ」
「え?」
「あなたの龍に飲ませてみたら」
レターさんは、ふんと笑って、もう僕に用はないみたいだ。こちらに背を向け、店の奥に行ってしまう。灰色の、肩までくらいの髪が、『早く帰れ』とばかりに揺れた。
「弓弦、こんなのありましたっけ?」
「あ……それは」
自宅。夕方ごろ朱夏も帰ってきて、ふたりで晩ごはんを食べ、ゆっくりする時間。そういえばテーブルに置いたままだった『惚れ薬』を、朱夏が不思議そうに見ている。
「惚れ薬らしいよ」
「惚れ薬?」
「そう。レターさんが……えっと、本屋の魔女さん」
「ああ」
朱夏は僕以外に驚くほど興味がないらしく、名前を言っても覚えていない。言い直し、やっと頷いた朱夏が、その容器をグッと握って。
……あっと思うのと同時。
ぼわっと音が聞こえた。朱夏の握りこぶしの中から、薄ら白い煙があがる。かすかに焦げたような匂いがして、煙も匂いもすぐに消えた。
惚れ薬。燃やしてしまったみたいだ、この龍は。開かれた手のひらには、容器のかけらすら残っていない。
朱夏は何事もなかったかのように笑い、
「あんな魔女から、ものもらったら危ないですよ」
「そこまで言わなくても。ちょっとした悪戯だよ、たぶん」
会話しながら、自然と抱き寄せられ、ソファに連れていかれる。朱夏の脚の上に座り、彼の腕に包まれて、夜になったばかりなのにちょっと眠くなる。
「使いたかったですか?」
「うん?」
「惚れ薬」
「ううん。別に」
首を横に振る。くすくす笑った朱夏が、僕の髪にキスをする。「そうですか」と、なんだかご機嫌な声。……なに当然、僕が朱夏に使うものだとして、疑わないの。朱夏も、僕自身も。
「僕に使ってみたかった?」
「いいえ、そんなものに頼る必要ありませんから」
「うん」
振り向き、見上げる。朱夏は僕を覗き込む。目と目があって、しばらく見つめあって。僕と朱夏は、一緒に笑った。
そうだよね、と笑い合える幸せに包まれて。
僕の行きつけの本屋には魔女の店主がいる。彼女に誘われたティータイム中、呆れた顔でこう言われた。
「毎日毎日、シュカシュカシュカって、飽きないのかしら」
朱夏。僕の旦那さまの話。げんなりした顔の彼女は、龍神な朱夏と仲が悪い。どうしてかといえば、魔女だから……らしい。
思わず頬が緩んだ。この顔、彼女は嫌いだろうなと思いながら、答える。
「飽きないよ。僕は」
「じゃあ、シュカがユヅルを飽きることは?」
「僕を? ……どうだろう」
飽きられたりしたら悲しい、けれど。
「飽きないと……思う。多分」
「ふうん」
彼女はつまらなそうだ。そして、話題に興味をなくしたようだった。
気まぐれなお茶会。
【魔女の惚れ薬】
僕がよく行く本屋の店主の魔女――レターさんが、放り投げるように渡してきたもの。プラスチックの小さな容器に液体が入っていて、
「それ、惚れ薬なのよ」
「え?」
「あなたの龍に飲ませてみたら」
レターさんは、ふんと笑って、もう僕に用はないみたいだ。こちらに背を向け、店の奥に行ってしまう。灰色の、肩までくらいの髪が、『早く帰れ』とばかりに揺れた。
「弓弦、こんなのありましたっけ?」
「あ……それは」
自宅。夕方ごろ朱夏も帰ってきて、ふたりで晩ごはんを食べ、ゆっくりする時間。そういえばテーブルに置いたままだった『惚れ薬』を、朱夏が不思議そうに見ている。
「惚れ薬らしいよ」
「惚れ薬?」
「そう。レターさんが……えっと、本屋の魔女さん」
「ああ」
朱夏は僕以外に驚くほど興味がないらしく、名前を言っても覚えていない。言い直し、やっと頷いた朱夏が、その容器をグッと握って。
……あっと思うのと同時。
ぼわっと音が聞こえた。朱夏の握りこぶしの中から、薄ら白い煙があがる。かすかに焦げたような匂いがして、煙も匂いもすぐに消えた。
惚れ薬。燃やしてしまったみたいだ、この龍は。開かれた手のひらには、容器のかけらすら残っていない。
朱夏は何事もなかったかのように笑い、
「あんな魔女から、ものもらったら危ないですよ」
「そこまで言わなくても。ちょっとした悪戯だよ、たぶん」
会話しながら、自然と抱き寄せられ、ソファに連れていかれる。朱夏の脚の上に座り、彼の腕に包まれて、夜になったばかりなのにちょっと眠くなる。
「使いたかったですか?」
「うん?」
「惚れ薬」
「ううん。別に」
首を横に振る。くすくす笑った朱夏が、僕の髪にキスをする。「そうですか」と、なんだかご機嫌な声。……なに当然、僕が朱夏に使うものだとして、疑わないの。朱夏も、僕自身も。
「僕に使ってみたかった?」
「いいえ、そんなものに頼る必要ありませんから」
「うん」
振り向き、見上げる。朱夏は僕を覗き込む。目と目があって、しばらく見つめあって。僕と朱夏は、一緒に笑った。
そうだよね、と笑い合える幸せに包まれて。