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溺愛しゅかゆづ夫婦 9


「ねえ弓弦、見ていてください」

 優しい彼女が心配しないように、痛くないですからねと前もって。
 人のかたちのまま、龍の尻尾だけ。現したそれの鱗を、指でつむ。

「一輪。貴女へ愛情を」

 呪文のように唄う。息を吹きかければ、朱龍神の朱い鱗は、ひらりと宙に舞う。
 それはゆるやかに変化しながら、弓弦の手もとへと。彼女がそっと受けとめるころ、鱗は一本の真っ赤な薔薇になっている。

「朱夏――?」
「ふふ。一輪、貴女へ幸福を」

 鱗をつむ指先。唄う声。色鮮やかな二本目の薔薇の花。朱夏は微笑みを絶やさず続ける。
 感謝。栄光。努力。希望。尊敬。情熱。誠実。
 真実。信頼――

「一輪、貴女へ永遠を。……弓弦。これらすべてを貴女へ捧げ、貴女へと誓います」

 力強い笑みがあった。揺らがない声と、黄金の瞳があった。弓弦のか細い腕に、瑞々しい薔薇が十二本。
 彼女の赤い瞳を際立たせるように、凛と咲き誇っている。

「愛しています。俺だけの愛おしい弓弦。ずっと俺の花嫁でいてください」

 用は済んだとばかりに消える龍尾。ぎゅむっと抱きすくめる両腕の弾みよう。
 黙って見守っていた弓弦が、くすりと喉をならして笑った。薔薇を腕にしているから、朱夏の服をきゅっと握り。

「もちろん。いつもありがとう、朱夏。どうか離さないでね、僕だけの旦那さま――」

 そして、その、朱夏の耳もとで。
 いつものように、照れた、恥ずかしがりやの一生懸命な声が、

「あ、愛して、いるから。僕だって貴方のこと、こんなに……」
「あははっ。はい」

 ふたりの生み出す幸せな空気は、どこまでも広がって、広がって。このリビングで収まりきらなくなって、寝室も、玄関も、ふたりの愛の巣すべてを包み、甘い月の雫となる。

 幸せいっぱいの笑顔。ほんのり赤い頬。まっすぐ見つめあったら、もう言葉はいらなかった。
 誓い合う口づけを。



十二本ばらの花に想い乗せだれよりなにより貴女へ誓う

ばらの花くれる貴方の微笑みと誓い言葉にうれしなみだ



 朱夏が僕にくれた素敵な薔薇。
 十二本の誓い、愛情、『ダズンローズデー』という今日のこと。
 彼が僕に想いを贈ってくれたように、僕も想いを贈り、伝えたくて。
 でももうお花屋さんは閉まっている。十二本の薔薇は、難しいから――。

「朱夏。あーん」
「ゆづ……あむ」
「えと、一個目。貴方に、感謝を」

 やきたてクッキー。
 ちょっとはずかしい、ハートのかたち。
 朱夏が薔薇をくれたときの、あの美しい様子を真似しながら、はい、二個目。

「ゆ……もぐもぐ」
「ごめん、今日が終わっちゃう前に……貴方に、尊敬を」

 わんこクッキーみたいになってしまっている。
 朱夏はこれ以上ないってくらいの笑顔で、クッキーを食べてくれている。
 でもまだあと十個あるから、どうかぜんぶ『あーん』をさせてね。
 僕も、貴方に誓いを。想いを。大好きだよ、朱夏。

「ふふ、弓弦、あー」
「うん、あーん。貴方に、永遠を」

 これからも、ずっと、僕だけの旦那さまでいてね。
 ――貴方に、愛情を。


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