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溺愛しゅかゆづ夫婦 9

「朱夏、ぎゅ」

 弓弦は、ふわりと腕を広げる。可憐に微笑む。麗しい花に惹き寄せられるように、その細腕に潜り込んだ朱夏を、優しく抱きしめた。

「今日もお疲れさま。僕のために、いつも、ありがとう。龍神さまな貴方が、人間の暮らしなんて、とても大変でしょうに」

 人間の暮らし。朱夏は、ふっと息を吐く。確かに面倒だ、大変だ。けれど、愛する弓弦との幸せな『普通の生活』のため。弓弦を想えば、苦痛はない。

「僕を大切にしてくれてありがとう。朱夏、僕、貴方が大好き。明日はお休みだよ、ゆっくりしよう」

 静かで、芯の強い声。美しく紡がれる言葉たち。そろりと朱夏の頬を包む白雪の手のひら。まっすぐ耀く紅宝玉の瞳。

「弓弦」

 その存在すべてが、朱夏を癒す。疲れた心身を解し、溶かし、暖めていく。朱夏は一度、ゆっくり息を吐き出した。ああ俺、疲れていたんですね。そう自覚して、弓弦はやはりすごいなと思う。朱夏自身より早く、朱夏が疲れていることを見抜いてみせるのだから。

「大好きです」
「うん」
「愛しています、弓弦。もっともっと甘やかしてほしいです」
「ふふ、うん、もちろん」

 ああ。幸せで満ちあふれている。これ以上の幸福は、どこにもない。弓弦と浸る幸せがあれば、他には何もいらないし、どんなことでも出来る。
 心の底から漲る、強くて眩しいほどの感情。朱夏は幸せいっぱいに笑って、弓弦をめちゃくちゃに掻き抱いた。

「もう、痛いよ」

 弓弦も笑う。ぽんぽん、朱夏の背中を撫でながら。


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