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溺愛しゅかゆづ夫婦 9

(……体がつらい)

 よくあることだと思いつつ、げんなりした。
 頭が痛い。胃のあたりにむかつきがある。素早い脈が全身をうち、四肢には重い脱力感。同じく痛みがある。
 鎮痛薬を飲み、ベッドに寝転んだ。はあ、とため息をつく、それすら苦しい。
 嫌いだ。つくづくそう思った。自分のことも、自分のひ弱な体も。

「弓弦……! 大丈夫ですか、なんでも言ってください。弓弦」

 朱夏が足早に寝室へやってきて、心配そうにこちらを覗く。切羽詰まった、つらそうな声色に、申し訳ないと思った。
 先ほどから朱夏は僕のためになんでもやってくれている。今だって、ホットミルクを作ってもってきてくれたのだ。
 僕は、朱夏が作ってくれるそれが好きだ。身も心も、やさしく癒してくれる。朱夏が僕を抱きしめてくれるみたいに。
 ……ずき。鈍い頭痛。思わず顔を顰める。朱夏が、泣きそうなくらいになって、ベッドの横に膝をつく。
 ふ、と横を向けば、同じくらいの目線。ああ、どうか、そんな顔をしないで。心配かけてごめん。大丈夫。
 朱夏の、真っ赤な炎みたいにきれいな髪。それに触れ、ゆっくりと撫でる。するり、指のあいだを抜けていく、ちょっとしたくせっ毛。
 指先ひとつ動かすのがだるい、はずなのに。朱夏に触れている時だけは、なんだか……。

「……弓弦?」
「……すき」

 そっと、撫でる。幾度となく。
 きょとんとする朱夏が、そんな顔でもかっこいい。
 朱夏の髪を撫でれば撫でるほど、彼に触れれば触れるほど、体のあちこちの痛みや不快感を忘れる。なんだか、夢中になれる。

「朱夏、すき」

 こどもみたいに言葉を繰り返した。だるい口角が、それでも自ずと緩んでいくのを自覚する。
 朱夏は僕の手に頬擦りをしてくれて、

「俺も貴女が大好きですよ」

 ああ、……ふふ。
 ありがとう、朱夏。僕は幸せ者だ。体中のつらさだって、ほら、貴方を前に和らいでいく。


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