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溺愛しゅかゆづ夫婦 9

年末の 忙しい空気 息詰まる

 だから、龍のすがたの朱夏に乗って、夜空をひとつ翔け、深い森の中。
 きらきら輝く龍神池のほとり。僕と朱夏が出逢った場所、そして、里帰りだ。
 強い火を宿す龍。格好いい朱夏が僕を包んでくれているおかげで、少しも寒くない。
 朱夏のまわりは、朱夏に傅くように、穢さぬようにと、自ずから綺麗になっていく。
 ……さすがは龍神さまなんだなあ、なんて。僕は、ただ、ぼんやりと思った。ちょっと久しぶりにしっかり見て触れる、龍すがたの朱夏のからだに身を委ねながら。
「弓弦、朝焼けですよ」
「あ、本当だ」
 夜がゆっくり幕を下ろす。目を醒ました空が、白く染まっていく。
 やがて、きらきらと光を宿す。夜明け。
「……貴女と出逢えたから」
 ぽつりと朱夏が言う。
「この朝焼けも、美しく感じられます」
 龍神としての永い孤独を思わせる言葉。なのに、穏やかな声色。きゅっと胸が切なくなる。僕は、せいいっぱい朱夏を抱きしめる。
 大丈夫。貴方には僕がいるから。こうして、ずっと一緒に。
「ふふ、弓弦。愛しています」
「先越された」
「ふふん、先を越しました」
 龍の横顔でも誇らしげに笑っているとわかる。むっとするくらい、どこもかしこも美しい龍。そのすがたも、人のすがたも、ずるいくらい綺麗で格好いい朱夏。
「僕も貴方を愛してる」
「ふはっ、はい」
 ついつい照れくさくていつも噛んでしまうから、そうならないようにひと息に言ったら、思ったよりつめたい言い方になってしまった。
 でも、朱夏はわかってくれる。とても嬉しそうにふわふわ綻び、僕をつつむ長いしっぽや胴にぎゅっと力を込め、苦しくないよう抱きしめてくれる。
 僕もぴったり彼に寄り添い、ゆるく息を吐いた。

 ここは静かだ。僕と朱夏以外、だれもいない。世界の喧騒から遠く離れて、あるいは遮断されて、ふたりきり。
 朱夏との、心地いい里帰り。



 僕の旦那様は龍神さま。来年は辰年であることを「俺と貴女の一年ですね」なんて、そのドヤ顔はよくわからないけれど。
「……去年や今年は違ったの?」
「!? いいえ、毎年! 毎年俺と貴女の一年です!」
 ちょっぴりさみしくなって聞いてみたら、途端にびっくりした顔をして、あたふたして。そっか、よかったと笑ってもまだ、僕を抱きしめ続ける愛しい龍神さま。



 お正月だから――なにを作ろう、なにをしよう、どうすれば朱夏は喜んでくれるかな。いろいろ考えているうちに微熱が出てしまって、結局こう。
 朱夏に心配かけて、面倒を見てもらって、情けない。
「弓弦、大丈夫ですからね」
「うん……」
「龍神特製おかゆ、任せてください」
 朱夏は腕まくりしながら意気込み、にこりと笑い、ベッドに沈む僕の頭を撫でてくれる。
 ……朱夏の作ってくれるおかゆ。それは、すき。僕は頷いて、朱夏に甘える。


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