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溺愛しゅかゆづ夫婦 9

 白い蝋の中に淡い炎が見える。
 ほんのり灯るキャンドルから、なんだか良い香りがする。
 多分、花の香りだ。香るのはなんの花なのか、僕にはまったくわからないけれど。
 ごろりと寝転ぶ寝室のベッド。サイドのテーブルの上のキャンドル。暫し魅入っていた僕は、ふと、寝返りをうつ。

「朱夏」

 そこに、朱夏のパジャマがある。本人はシャワーを浴びていて、今はいない。
 僕はそのパジャマを抱き込んでみた。誰も見ていないのを良いことに。
 ふわり、朱夏の香りがする。パジャマに顔を埋め、深く息を吸ってみたり、吐いてみたり。
 どきどきする胸の中。そのままの感情を、ぽつりと口にする。

「朱夏の香り。こっちの方が、すき」

 比べてしまったらキャンドルが可哀想だけれど。
 ……僕は、そう、そんなふうに、だいぶぼうっとしていて。気づかなかった。
 シャワーから上がってきた朱夏のこと。寝室に戻ってきていた彼が、ばっちり僕の呟きを聞いてしまい、

「弓弦」
「えっ」
「ずいぶん可愛らしいことをしていますねえ」
「えっ……と」

 もっと聞かせてください。俺の目の前で。俺に向かって。
 どんどんと言葉で詰め、にこにこ詰め寄ってくる朱夏に、僕は躊躇うばかりで。


 ――今日も今日とてばかっぷる。そう呼んで差し支えないだろうふたりの影を、アロマキャンドルの光が延ばす。
 香る花は、ゼラニウム。


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