溺愛しゅかゆづ夫婦 8
ほのかな花の香り。朱夏は、薄黄色のハンドクリームを、僕の手に丁寧に塗ってくれる。
「弓弦の手が荒れたら大変ですから」
優しい声。仕上げだとばかりに、手の甲に落とされるキス。ああもう、僕の心臓がもたないよ。
ええと、僕は。朱夏の膝の上に座って、本を読んで、のんびり過ごして、心穏やかだった。はずなのに。
「弓弦」
「ふぁっ、あ、ぅ」
ちゅく。いやらしい音。ぞくん、と脳髄までしびれて。逃げたくても、朱夏が許さない。
「こんな急に寒くなることないのに、もう……」
毛布の中。弓弦は、かたかたと震えながら言う。確かに、唐突に寒い。そんな夜だ。
「まあまあ。暖めて差し上げますから」
「ちょっと嬉しいと思っているでしょう、朱夏」
「はー、はー……っ」
ぐったり肩で息をする弓弦。そのか細い声、ぴくぴく跳ねる身体、涙に濡れた顔。すべてが愛おしくて。
「んぁ、まって、しゅか」
もっとほしい。待てませんよ。朝の気配なんて、遠い世界のようだ。
もこもこのふわふわ。朱夏がプレゼントしてくれた、新しいパジャマ。かわいい、いちご柄。夜、さっそく着てみたら、
「ああ弓弦、本当にかわいいですね、似合ってますね、愛してます」
「あ、ありがとう」
照れくさい。
夜中と明け方の真ん中。中途半端な時間に起きてしまって、なんだか眠れなくて。ぼうっとしながら、貴方を見つめる。朱夏。大好きな僕の龍神。旦那さま。
「ふ、ゆづる……」
そっと髪を撫でたら、ふにゃり。貴方は無防備に、無邪気に、嬉しそうに笑う。起こしてはいないみたいだ。よかった。貴方が好き。