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溺愛しゅかゆづ夫婦 8

 すすり泣く声が聴こえる。
 弓弦は眠ったまま、涙を流し、不規則な息をする。
 なにがそんなに悲しいのだろう。
 ……きっと、弓弦自身にもわからないのだろうなと、朱夏は思った。
 悲しく、苦しかったことが多すぎて、それらは今でもなお、弓弦の首を絞めに、こうしてやって来るのだ。

「でも。大丈夫ですよ、弓弦」

 ぽつり。朱夏の声は、優しく響いた。
 弓弦の震える背中を撫でる、その手のひらは光を宿していた。
 必ず、護る。どんな悲しみからも、苦しみからも。それらはごちゃごちゃに絡みあった茨なのかもしれない。鋭い棘が弓弦に喰い込み、絞め殺そうとする。
 それならば、

「俺は火を司る龍。そのなかでも、最強の龍神です」

 そんなものは燃やしてしまえばいい。愛しい弓弦を傷つけないようにしながら。絡んだ糸をほどく時のように、茨を握りしめたって構わない。痛みを恐れる必要はない。
 朱夏は、弓弦を愛しているのだから。

「必ず護ります。弓弦、貴女を」

 濡れた頬に誓いのキスをして、水鏡のように美しい涙を指先で拭う。
 真剣な眼差しで、それでもふっと笑ってみせた朱夏は、か細い体で苦痛に耐えてみせる弓弦を、ぎゅむっと両腕に抱き込んだ。
 いちど、起こしてしまうつもりで。

「ぅ、……ぁ、しゅ……?」
「弓弦」

 大丈夫。
 朱夏は優しく微笑みかける。
 ――貴女の傍に、俺がいますから。


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