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溺愛しゅかゆづ夫婦 8

 もふり。昼食のスティックパンが、思ったよりふかふかで美味しくて驚いた。先ほど買い物に行ったとき、適当に選んだパンだ。食べられればなんでもいいと思って、味すら確認しなかった。
 ちいさなスティックパンを、ゆっくり時間をかけて食べる弓弦は、テーブルに置かれたパンの袋を見る。チョコチップ入りスティックパン、6本入り。まだ、5本もあるらしい。

(さすがにそこまで食べられないけど……)

 1本で充分お腹を満たせてしまう弓弦は、自分がどれほど少食なのかを知らない。興味がない。愛しの旦那が――今は仕事中である朱夏が――このことを知れば、また、『貴女はもっと食べるべきです』と眉を下げるのだろう。

 ゆっくり、ゆっくり。時間をかけて。たった1本のスティックパンをようやく食べきった弓弦は、丁寧に手を合わせ「ごちそうさま」をし、残り5本のパンの袋を輪ゴムで縛った。
 朱夏が帰ってきたら、これ食べてみて、と言いたい。そしてその反応が見たい。弓弦は、そんなふうに考える。たまたま手に取っただけのなんでもないパンが美味しくて、だから、それを朱夏と共有したい。朱夏も『美味しい』と思うかどうか、それにも興味がある。

(……僕、貴方のことばかり考えているなあ。ねえ朱夏)

 貴方のことが、いっときも頭から離れない。もしかすると、そうだから、スティックパンも美味しいと思えたのかもしれない。食べることって面倒だけれど、貴方のおかげで。
 ――傍らのスマートフォンが、きれいな音楽を鳴らす。朱夏からの着信だ。朱夏専用に設定した着信音。

「はい、水無月です」
『ゆづっ……えっ? な、なんでそんな、他人行儀なんですか!?』
「ふふ。おつかれさま、朱夏」

 電話の向こう。弾んだ一声と、反転し困惑する様子。
 ちょっとからかってみて、『もう可愛いんですから』なんて、笑い声まじりのふてくされた返事があって。
 のんびり晴れた青空のように、穏やかな昼下がりだ。


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