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溺愛しゅかゆづ夫婦 8

 弓弦はよく、貴方だけずるい、とむくれる。俺が弓弦を甘やかし、溺愛するから、僕だってそうしたいのにと頬をふくらませるのだ。とても可愛らしく。
 ああ、まったく、わからないひとだなあと思う。
 俺は貴女にたっぷり愛してもらっているのに。貴女の瞳、視線、指先、声色、表情――弓弦のすべてが、俺を虜にして離さない。愛されている。心が満ちて、足りなくなって、もっと貴女が欲しくなって。

「朱夏」

 貴女は一生懸命に背伸びをする。俺は彼女のために軽くかがみ込む。ちゅ、と触れるだけのキス、貴女の最上で際限のない溺愛。俺へだけの。
 ああ、ねえ、弓弦。貴女ばっかり、ずるいです。俺だって。貴女のことをどれだけ愛しているのか、貴女にどれほど愛されているのか、もっと伝えたい。
 もっと。



 僕は朱夏の髪が好き。ちょっとごわごわする強い髪。こうやって、わしゃわしゃして、ずっと撫でていたい。いつか、結んでもみたい。ちいさなツインテールかな。

 僕は朱夏の瞳が好き。どんな季節にも力強く咲き誇るような、ひまわり色の瞳。他人に対してゾッとするほど冷たいのに、僕にだけ、ひまわりの花びらを散りばめたはちみつになる。そうして微笑まれると、僕の胸は、ひどくくすぐったくなる。

「弓弦、愛しています」
「……む」

 ソファの上、僕は朱夏の髪を撫で、彼の瞳を見つめ、今日こそ僕から言いたかったのに。あいしている。
 なのに、先に言われてしまった。いつもみたいに。くすくすと笑う朱夏は、絶対にわざとだ。僕をぎゅむっと抱きしめる。

「ずるい」
「だって、待ちました」

 ……確かに、一時間くらい、こうしていたけれど。

「俺も貴女の髪を撫でたいです。瞳は、どれほど愛でても少しも飽きない。愛を伝えて、抱きしめて、想うまま貴女に触れたいですよ」
「……うん」

 ああ。今日も、敵わないな。
 僕からも朱夏を抱きしめて、せめてと思い、その耳もとで。

「朱夏、大好き」


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