溺愛しゅかゆづ夫婦 8
ぎゅっと抱きつきあって、ベッドでぐうたらうとうと。微睡みながら、朱夏が聞く。
「弓弦、どこか出かけたいとかありませんか?」
せっかくのお休みですし、と気をつかってくれる彼に、僕は応える。
「このままがいい」
雨の音を聴きながら。寒さを毛布で拒みながら。
「弓弦、眠いですか?」
「うん……少し……」
朱夏と隙間なく抱きしめあって、脚まで絡めて、そのおかげで僕は、体の芯から暖かくて。
おやすみなさい、とくれる口づけ。
はいはい、弓弦、もうおしまいですよ。
この本はこちらに置いておきます。続きは明日。
「朱夏、あと少し……ふわ」
あはは。あくびする貴女もかわいいですね。
俺と一緒に寝ましょう。瞼を閉じて。
おやすみなさい。
うだうだ続くテレビにも飽きて、電源を消す。朱夏は、そうして、僕の髪をいじりだした。一度結んでいたものをわざわざほどき、ブラシと指先で、僕の髪をとても優しく梳かしていく。
「弓弦」
その、ふいの、たった一言。それが僕の耳もとに囁かれ、正確に、『愛していますよ』と聴こえた。
心が、跳ねる。
マグカップがふたつ、テーブルに置かれている。
練乳色のそれに描かれているのは、りんごうさぎ。
赤い耳と瞳。黄色の果肉が胴体だ。
「もうすぐですよ」
「うん」
朱夏が話しかけ、弓弦が頷いた。
夜中のキッチンには、ホットミルクの甘い香りが漂っている。
朱夏が手間をかけて作ってくれているはちみつ入りのホットミルクが、じきに、この可愛らしいりんごうさぎ柄のマグカップに注がれるのだ。
ふたりのお揃いに。愛情たっぷりに。