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溺愛しゅかゆづ夫婦 7

 それにしても――。朱夏は横目に後ろを見た。そこには、ついさっき滅したものたちの燃えかすが、だらだらとくすぶり続けている。しつこいものだ。

 ここは真っ暗。なにもない空白。朱夏の腕が大切に抱えるのは、弓弦。彼女はだらんと力なく、まるで死人のようだった。心配そうに、くしゃりと眉をさげた朱夏は、彼女に語りかける。
 もう、大丈夫ですよ。
 ここは夢の中。弓弦が見る、悪夢の、燃やし尽くされた後。炎を操ったのは、もちろん朱夏だ。愛しい花嫁を救いに来た彼は、偉大なる御常夏朱之空喰龍。
 くすぶる悪夢の名残りを踏み潰す。龍神だ。

 それにしても、よくもまあ、俺のかわいい弓弦を毎夜のように傷つけるものですねえ。
 朱夏は、止めをさした燃えかすが消えゆくさまを、ごみを見るような目で睨みつけた。
 しつこいものだ。夜毎、弓弦を苦しめる悪夢。それは彼女の心的外傷。惨たらしい過去が、いつまでも弓弦に絡みつく。
 朱夏がどれだけ弓弦を溺愛し、弓弦がくすぐったそうにそれを受けとめても、こびりついて取れないもの。朱夏は、苦しげな弓弦をぎゅうと抱きしめ、その額に口づけをした。

「大丈夫ですよ、弓弦、さあ起きましょうか。たまには、ホットココアでも。もちろん、作ってさしあげます」

 ぴくり。弓弦の指先が反応する。朱夏の言葉に、こたえるように。そのさまはとても健気で、朱夏はたまらなく切なくなる。無慈悲な龍神は、彼女を前にしてのみ、あれこれ感情に右往左往する、血の通った人間のようになる。

 龍神といえど、彼は炎を司る。全知全能ではない。愛しいひとの悪夢に入り込み、救い出すことはできても、愛しいひとが悪夢をみる、その根本的なところを消し去ることはできない。
 それが、とてももどかしかった。
 しかし、ならば、毎夜と救い出すだけだ。はっと飛び起きる弓弦を、その現実でもすかさず抱きしめ、なるべく悪夢のことを引きずらないように、しっかり支えてやればいい。それは手間でも、なんでもない。

 ぐったりとしていた弓弦が、ふらり、腕を動かした。ふらふらと彷徨う細い腕。不器用に、朱夏に抱きつく。その力はまだ弱々しく、彼女は少し震えている。

「弓弦。愛しています」

 一生懸命な弓弦が、どうしようもなく愛おしい。朱夏はふわりと微笑み、自らの腕に力を込め、深い闇の中を歩き出した。やわらかい光が見える方へ。ふたりの寝室、つまりは現へと。
 救うのだ。何度でも、毎夜でも。愛おしいたったひとりのために、それは当然のことだ。
 そして、とびきり美味しい、弓弦の心の安らぐ飲みものを作る。愛情と、おまもり。貴女がどうかぐっすり眠れますように。祈りと、想いを込めて。


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