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溺愛しゅかゆづ夫婦 7

 ちいさなデザートスプーン。それを、弓弦の指先が操る。細く、淡雪色の美しい手指。
 そっと掬いあげる、杏仁豆腐プリン。ちいさな容器の中に、杏仁豆腐なのかプリンなのかわからない、真っ白なぷるぷるが収められている。
 ひとくち食べると、やわらかい甘さが口のなかに広がった。弓弦は、ふわりと目を伏せる。食べやすく、美味しくていい。風邪をひいてしまったときなどにも、きっと良いだろうと思った。


「弓弦、美味しいですか?」

 その杏仁豆腐プリンを買ってきたのは、朱夏だ。お風呂上がりの朱夏が、興味津々に弓弦を覗き込む。
 弓弦は顔を上げた。首にタオルをかけ、赤い髪はしとど。まさに水も滴るいい男。

「美味しいよ。……ほら」
「ありがとうございます」

 朱夏の格好良さに目も心も惹かれてしまいながら、弓弦はまたひとくちスプーンで掬い、ぷるぷるの白を朱夏に差し出す。嬉しそうな朱夏が、礼を述べつつ、それをぱくりと食べた。

「ん、そうですね。食べやすくて軽い甘さです。貴女が好みそうな」
「うん。僕は好き」
「……弓弦、俺のことは?」
「へ? ええと、今日もかっこいいよ、朱夏。風邪ひくから、早く――」

 朱夏は、のんびりと動く。心なし、むっとした表情で。弓弦の指からデザートスプーンを抜き取って、杏仁豆腐プリンの容器にかちゃりと置く。
 からになった弓弦の手。それを恋人つなぎで絡めとる朱夏が、弓弦にキスをする手前。弓弦だけを見つめるひまわり色の瞳に、弓弦は、『ああ』と思った。
 杏仁豆腐プリンの甘さが残っているから、だろうか。恥ずかしがり屋な弓弦の口から、めずらしく、するりと言葉が躍る。

「大好きだよ、朱夏。……ん」
「ふふ、」

 ひどく嬉しそうな、幸せそうな、朱夏の笑い声。
 ふわっと重なりあう唇も、まっしろで、ゆるやかに甘い。


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