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溺愛しゅかゆづ夫婦 7

 ハロウィンの今日、朱夏はお仕事を休んで、僕をひたすら甘やかしてくれていた。
 理由は、さまざま。ハロウィン前夜の昨日、僕と朱夏のトリックオアトリート攻防で、今年も朱夏にいいようにされて、散々いたずらされたから。足腰の痛い僕を、責任もって面倒みてくれている、というのもある。
 それから、たくさんのお菓子よりもよっぽど、たくさんめいっぱいに深く僕を甘やかしたいから、だって。お菓子にまで対立心を燃やす龍の神様。すごいね。
 あと――。

「ハロウィンっていうのは、どうも、悪い虫けらが湧きがちなので。その虫が、貴女のまわりをうろつかないようにしたいですからね」

 悪い虫。それってなあに、ハロウィン祭りでうかれた人間こと? それとも、貴方の嫌いな、悪霊とか幽霊とかそういうもののこと?
「どちらもです」が、答えだった。「俺がいれば、どっちも寄ってきません」と、僕を大切そうに抱きしめてくれた。
 そんなこんな理由があって、朱夏は僕につきっきりだ。それはもうひたすら徹底されていて、今日の僕の移動は、朱夏のお姫様抱っこ。そういうレベル。

 そんなハロウィンの日も、もうすぐ終わり。
 夜になった。晩ごはんを作らなくちゃ。朱夏と食べて、一緒にテレビを見て、お風呂に入って。
 日付けが変われば、もう十一月。ひと月も一年もあっという間すぎて、なんだか寂しい気持ちになってくる。

「弓弦。夜ごはん、なにがいいですか?」
「いいよ朱夏、僕が作るから。なにがいい?」
「いえ……ああ、それじゃあ、ふたりで作りましょうか。オムライスなんていかがです?」
「うん」

 僕を大切にしてくれて、でも、僕の意思も尊重してくれて。
 そんな朱夏に、また、ひょいっとお姫様抱っこされる。足も腰も朝より良くなったから、もう大丈夫なのに。それなのに僕は朱夏に甘えてしまうし、朱夏もわかっていて僕を甘やかしてくれる。この、すぱだりめ。ずっと僕だけの旦那さまでいて。
 当然です、なに言っているんですか、って、朱夏なら即答してくれそうだと思えて――そうしたら、ふっと、心にぽつんとあった寂しさが暖かくなった。
 ぽかぽかして、もう寂しくない。……ああ、そうか。

「朱夏、すき」
「ふふ、どうしました? 寂しくなっちゃったんですか? 嬉しいです。俺も貴女が大好きですよ。愛しています」

 朱夏は、ずっと、僕と一緒にいてくれるんだ。
 これまでもそうだったように、これからも、きっとそう。それでも、いつかこの幸せが終わってしまったら、なんて怖くなってしまうのが僕だけれど、今はなんだか不思議とネガティブにならない。
 僕は、これからも朱夏と一緒に生きていける。彼を愛して、彼に愛されて、今日はなになにの日に因んだり因まなかったりしながら、毎日想いを伝えあって。名前を呼びあって。
 朱夏、貴方と生きていたい。これからもずっと。今日も、カレンダーを一緒に捲りたい。十月から十一月への瞬間も、手をつないで迎えたい。
 わがままかな。強欲かな。……重いかなあ。

「弓弦、大丈夫ですよ」
「……僕の心でも読んだの?」
「いいえ。寂しい顔をしていますから。貴女のことは、俺がいちばんよく知っています。ふふん」
「なにそんな、自慢げ……」

 朱夏の唇が、僕の唇に重ねられた。
 ちゅっと優しい音がする。
 心の奥底から、ふわふわ、あたたかい気持ちが溢れていって、それは僕の全身を包み込む。その上、朱夏の両腕に抱きしめられているものだから、これ以上ない幸福感に充たされる。
 ああもう、だいすきだ。僕だって、貴方をあいしている。ねえ、朱夏。
 あんまりにも甘くて、どろどろに溶けちゃいそうだから、今日がハロウィンで良かったと思った。
 ハロウィンだから、こんなに甘い。そう思わせて。どうせすぐにそれだけじゃ寂しくなって、いつなんどきだって甘やかしてほしいと願ってしまうに決まっている。
 そしてこの、朱夏という僕だけのすぱだり龍神様は、僕が願っても願わなくても、いつなんどきだって僕を甘やかして、この心を溶かしてしまうのだろうから。

「すき。朱夏」
「あはは、ありがとうございます。ですが、俺の方がもっと好きですよ、弓弦」

 すき、すき、と言い合っているだけで、ハロウィンが終わって十一月になってしまいそうだ。
 だから、とりあえず、一緒にオムライス作ろうか。


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