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溺愛しゅかゆづ夫婦 7

 ごろりと寝返りを打つ。もう、何度目だろう。
 弓弦は深くため息を吐いた。眠れない。いよいよ、うんざりだ。

「弓弦」
「朱夏、ごめ――」
「絵本。読んで差し上げましょうか」
「え。……絵本?」

 朱夏とは同じベッドの中だ。名前を呼ばれたとき、弓弦は思わず肩を強ばらせてしまった。もういい加減にしろと言われてしまうかもしれない、そんな恐怖に怯えた。
 自分の愛おしい夫が――自分をいつだって溺愛し、甘やかしてくれる朱夏が、そんなことを言うわけはなかった。これまで、一度も言われたことがない。かすかにも、嫌な顔すらされたことがない。だからこそ怖い。弓弦は、極端に臆病な性質を持っている。
 だから、咄嗟に謝ってしまう前に、朱夏が絵本という単語を出してきて……ふいに手のひらを掲げたと思えば、突然、その手のひらに、ぱっと絵本が現れる。
 龍の神が成す業。不思議な力を当然のように操る。そんな朱夏は、ベッドに横たわったまま、優しく弓弦を抱き寄せる。弓弦は朱夏の胸になだれこみ、わふっと声を上げた。

「貴女の好きな絵本です。『凍ればいいのに』。では、読み手、水無月朱夏」
「……ふふっ、そこからなの」

 へんなところで、とっても真面目。弓弦は思わず笑ってしまう。朱夏も「あはは」と笑い、絵本を持つ手とは反対の手のひらで、弓弦のふわりとしたベージュの髪を撫でた。

「――『でも、それでもどうにもならない時って、あるよね』。……」
「…………。ふ、わ……んん……」

 聴き心地の良い、ゆったりとした低い声。ぱらり、ページのめくられる音。絵本の読み聞かせが始まり、ほどなくして、弓弦はうとうとふねを漕ぎ出す。

「眠ってしまっていいですからね」
「ん……」

 あれほど眠れず、もやもやしていたのが、嘘のよう。弓弦は何度も何度もあくびをかみ殺し、ちいさく頷く。朱夏の片手が、また、弓弦の頭を優しく撫でる。
 ……いつまでも聴いていたい声。貴方の声。朱夏、僕、貴方が好き。大好きだ。うまく伝えられなくて、もどかしい。

「愛しています。弓弦。良い夢を」

 額へ、やさしいキスのぬくもり。
 弓弦は、そっと瞼を閉じる。


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