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『狼の瞳と背中のいんく』

思いながら放った弾は、的の中心を射抜いた。


今では、ヘッドフォンも外して、支え無しで片手で打つ練習をしている。


ロウも、少し厳しくなった。

弾の入れ替え時間はかなり短くなって、片手でも流れる様にできる様になったけれど、まだ目隠しをしてする銃の組み立て時間はノルマをクリア出来ていない。


最近は、午後も体術の練習をせずに、2、3階へ上がってロウと即席の戦闘予行演習をしている。

所々穴があったり、崩れている階段を駆け上がったりするのは大変だけど、ここに来てすぐ、よく探険していたのが幸いなことに、慣れてしまえば難なくロウを追いかけて走り回ることができた。


走りながらの銃の持ち替えや狙いの定め方はまだ完全には習得できていないけれど、ロウはいつも本気で相手をしてくれる。練習用に、実用より少し重めの銃に赤いペイント弾を持たせ、手、足首に簡単な錘をつけてもくれた。


午後の練習は好きだ。

楽しいし、どうやってロウを追い詰めて負かしてやろうかと作戦を練るのもなかなかだ。でも、いつも後少しのところで逃げられる。





一度だけ、ロウが不調だったのか、俺の調子が良かったのか、屋上まで追い詰められたことがあった。





銃を構えて、狙いを定めてトリガーに指をかける。

スコープごしに見えたロウは、笑っている様に見えた。

次の瞬間、ロウが一気に間合いを詰めて来て、金色に輝く瞳は、獲物を狩る本物の狼の様だった。

はっ、として慌ててトリガーを引いたけれど、弾はあえなく床を赤く染めただけで、俺が息を吐くよりも早く、ロウが背後に立っていた。


「はい残念。惜しかったな。」


ばーんっ、とおちゃらけた表情をして笑って見せたロウ。

背中にビチャっとインクが染みたのがわかる。


「よし。これで今日も洗濯当番はお前だ」


はははは、と笑い声が遠のいていくのを聞いて、またかと肩を落としてシャツを脱ぐ。

案の定、白いシャツの背中には広がって垂れた赤がべったりと付いていた。
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