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『金色の瞳』

酷く澄んだその金色の瞳を細めて、男は微笑んだ。


「いいな__」


そう男が小さくと呟くと、金色の目をした男の隣にいたスーツの男が、俺の方へ来て腕を無理矢理引っ張りあげて立たせる。


「589番落札!」


カンカン、と木槌を打つ音がして拍手喝采が起こる。

金色の目をした男は俺の頭のてっぺんから足先までを見ると、くわえていた煙草の煙をふいた。


「お前細いな。....まぁいいだろう。来い。」


薄く笑みを浮かべながら長い髪を翻し、踵を返して歩き始めた男。


入り口の受付所で何かを書き、大きなアタッシュケースを押し付けるように受付の男に渡す。

ふと振り返り俺がついて来ているかを確認してホールを出た。





絢爛な金の装飾が施された大きな扉を通ると、見たことのない所に出た。

今まで何回かホールで行われるオークションに出品されたことはあったが、買われたのは初めてだったから、ホールより奥に来たのは初めてだった。

深紅の絨毯がひかれている廊下を進み、男はエレベーターの前で止まる。

上へ行くボタンを押して、エレベーターが降りてくるのを待つ間に、内ポケットから折りたたみ式のナイフを出して、俺の手に巻かれた縄を切った。

ブチブチと音を立てて切れた縄がバラリとその場に落ちたが、それを機にする様子も無く、男は俺の手を引いて開いたエレベーターに乗り込んだ。





チンっと小さな音を立てて、エレベーターが先度開いた。

瞬間、眩しい光が俺の目を刺した。

薄いサングラスをかけていた男も おー、と声を洩らし目を細める。

ガラス張りの大きな扉をスーツをピシッと来こなした二人のドアボーイが開けると、男は左手を挙げて挨拶し通り抜けた。

その後ろで戸惑っていた俺を、ドアボーイが外へ出るようジェスチャーする。

俺は促されるまま建物の外へ出て行った。





外の空気を吸うのは何時ぶりだろう。

この大空を見るのは何時ぶりだろう。


太陽が、高いビルの間から顔を覗かせ、空を茜に焼いている。

レーザー線の様な人口の光に慣れすぎた俺は、自然の太陽の光が目に痛かった。

思わず目を覆ってしまう俺に、男はくつくつと笑いながらサングラスをぐいっとかけさせる。


「行くぞ。」


そう言って振り返り、俺を見据えた男の顔には朝日があたり、こっちの目が眩んでしまう程、金色の瞳が輝いて見えた。

あぁ、眩しい。

俺を射抜いて殺してしまいそうな目が眩しくて仕方ない。


少しの階段を降り、道路の歩道を行く男の後ろを、遅れない様についていった。
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