③バンパイア・クリスマス
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1章
サムの死から1年と少しが過ぎた。
ダレンはあの一件から人間の血を飲めるようになった。きっかけは最悪だったけれど、サムの魂を自分の中に取っておくためには仕方のないことだった。それからはクレプスリーから正しく血を飲む方法もちゃんと教わって、今ではもう身も心もバンパイアという闇の生きものになりきっていた。
昼はショーの練習や本を読む。学校に通えなくても自分で勉強は出来るから合間を見ては様々な本を手に取る。勉強はむしろ好きな方だ。知識は無駄にならないし。……でもそんなところが、私が人間を捨てきれない部分なのかもしれない。
夜になればクレプスリーが起きてくる。シルク・ド・フリークのキャンプ地に戻って食事の支度に、夜中はバンパイアとして生きるための訓練をする。
三人で焚き火を囲みながら食事を取り、今晩のショーの確認をしていたそのとき、後ろで怒鳴り声がした。
「動くな!動けばこいつらを殺すぞ、ラーテン・クレプスリー!」
「うわぁっ!!」
「っ…!」
気が付いたら喉元に鋭いナイフがあてがわれていた。怒鳴り声は、ナイフを向けている男のもの。両手に持ったナイフを、私と隣にいたダレンにそれぞれ突きつけている。
ひんやり冷たい刃の感触に、喉を掻っ攫われる恐怖が背筋を走った。
「おいおい、ガブナー。お前の気配なぞ1キロ先から気づいとったぞ」
「嘘つけ!それが17年ぶりに会った友に言う事かよ。ったく……」
謎の男の悪態に、クレプスリーはくすくすと笑い出す。
目の前で手下が人質に取られていても、我が主はいつものように食事を続けている。少しは心配をしてくれても良いだろうに。
だが男は激怒するでもなく、首元のナイフをそっと離した。喉をさすって切れてないことを確認しながら、恐る恐る振り返ると、がっしりとした体格に、茶色の短髪、顔には傷や痣が目立つ男が立っていた。
「2人共、こいつはガブナー・パール。我が輩の古い友人のバンパイアだ。ガブナー、こいつらは我が輩の手下だ。しかし、こんな子供を怯えさせてみっともないぞガブナー」
「どうせオレが脅かせるのは子どもかご婦人くらいだよ!」
ガブナーがバンパイアなら、背後に取られたのも納得だ。まったく気配を感じなかった。
「ガブナーはな、こう見えてもバンパイア将軍なんだ」
「まぁ、こいつみたいな悪党を見張ってんだ」
そう言いつつ、クレプスリーの肩を小突く。
「将軍の仕事はバンパイア一族の監督。罪のない者を殺めたり、バンパイアの力を悪用した者を見つけ、その者を裁く権限を持っているんだ。」
「裁くって?」
「悪さをした者を殺すのだ。少年、ちょっとすまない」
ガブナーはダレンに近づき、両手を取った。指先に刻まれた小さな傷跡を見つけると、目を大きく見開いた。
「おいおい!何の冗談だ?この子バンパイアじゃないか!まさかお嬢ちゃんも……」
「ネア・クローフィールド、と言えば分かりますか?」
言われるまま手を差し出し、名前を名乗ると、ガブナーはぴくりと動きを止めた。
――「他のバンパイアに会ったら名を名乗れ」、そうあの人に言われたからだ。
カブナーは数秒の沈黙のあと、目を見開いたままゆっくり頷き、「……! 君が“緋き継承者”か」とぽつりと言った。
初めて聞くその言葉に首を傾げる。でもガブナーはすぐに「何でもない」と目を逸らしてしまった。
「ダレンの件、何故そうしたか話せば長くなるが……。さぁ、我が輩を裁いてくれガブナー、そのために来たんだろう?」
「まさか、知るもんか!俺がお前を裁けるわけないだろう!俺が来たのは別件だ!」
「あの、何の話?」
「……あとで説明してやる。すまんが、これからガブナーと2人きりで話をする。Mr.トールには今晩のショーは出られんと伝えてくれ」
その時のクレプスリーの顔には、いつもと違う真剣な色が浮かんでいた。
どうやら私たちには、聞かせたくない話らしい。
サムの死から1年と少しが過ぎた。
ダレンはあの一件から人間の血を飲めるようになった。きっかけは最悪だったけれど、サムの魂を自分の中に取っておくためには仕方のないことだった。それからはクレプスリーから正しく血を飲む方法もちゃんと教わって、今ではもう身も心もバンパイアという闇の生きものになりきっていた。
昼はショーの練習や本を読む。学校に通えなくても自分で勉強は出来るから合間を見ては様々な本を手に取る。勉強はむしろ好きな方だ。知識は無駄にならないし。……でもそんなところが、私が人間を捨てきれない部分なのかもしれない。
夜になればクレプスリーが起きてくる。シルク・ド・フリークのキャンプ地に戻って食事の支度に、夜中はバンパイアとして生きるための訓練をする。
三人で焚き火を囲みながら食事を取り、今晩のショーの確認をしていたそのとき、後ろで怒鳴り声がした。
「動くな!動けばこいつらを殺すぞ、ラーテン・クレプスリー!」
「うわぁっ!!」
「っ…!」
気が付いたら喉元に鋭いナイフがあてがわれていた。怒鳴り声は、ナイフを向けている男のもの。両手に持ったナイフを、私と隣にいたダレンにそれぞれ突きつけている。
ひんやり冷たい刃の感触に、喉を掻っ攫われる恐怖が背筋を走った。
「おいおい、ガブナー。お前の気配なぞ1キロ先から気づいとったぞ」
「嘘つけ!それが17年ぶりに会った友に言う事かよ。ったく……」
謎の男の悪態に、クレプスリーはくすくすと笑い出す。
目の前で手下が人質に取られていても、我が主はいつものように食事を続けている。少しは心配をしてくれても良いだろうに。
だが男は激怒するでもなく、首元のナイフをそっと離した。喉をさすって切れてないことを確認しながら、恐る恐る振り返ると、がっしりとした体格に、茶色の短髪、顔には傷や痣が目立つ男が立っていた。
「2人共、こいつはガブナー・パール。我が輩の古い友人のバンパイアだ。ガブナー、こいつらは我が輩の手下だ。しかし、こんな子供を怯えさせてみっともないぞガブナー」
「どうせオレが脅かせるのは子どもかご婦人くらいだよ!」
ガブナーがバンパイアなら、背後に取られたのも納得だ。まったく気配を感じなかった。
「ガブナーはな、こう見えてもバンパイア将軍なんだ」
「まぁ、こいつみたいな悪党を見張ってんだ」
そう言いつつ、クレプスリーの肩を小突く。
「将軍の仕事はバンパイア一族の監督。罪のない者を殺めたり、バンパイアの力を悪用した者を見つけ、その者を裁く権限を持っているんだ。」
「裁くって?」
「悪さをした者を殺すのだ。少年、ちょっとすまない」
ガブナーはダレンに近づき、両手を取った。指先に刻まれた小さな傷跡を見つけると、目を大きく見開いた。
「おいおい!何の冗談だ?この子バンパイアじゃないか!まさかお嬢ちゃんも……」
「ネア・クローフィールド、と言えば分かりますか?」
言われるまま手を差し出し、名前を名乗ると、ガブナーはぴくりと動きを止めた。
――「他のバンパイアに会ったら名を名乗れ」、そうあの人に言われたからだ。
カブナーは数秒の沈黙のあと、目を見開いたままゆっくり頷き、「……! 君が“緋き継承者”か」とぽつりと言った。
初めて聞くその言葉に首を傾げる。でもガブナーはすぐに「何でもない」と目を逸らしてしまった。
「ダレンの件、何故そうしたか話せば長くなるが……。さぁ、我が輩を裁いてくれガブナー、そのために来たんだろう?」
「まさか、知るもんか!俺がお前を裁けるわけないだろう!俺が来たのは別件だ!」
「あの、何の話?」
「……あとで説明してやる。すまんが、これからガブナーと2人きりで話をする。Mr.トールには今晩のショーは出られんと伝えてくれ」
その時のクレプスリーの顔には、いつもと違う真剣な色が浮かんでいた。
どうやら私たちには、聞かせたくない話らしい。
