②若きバンパイア
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10章
次にサムの姿を見たのは、彼の体が真っ赤に染まり、直視できないほど無惨な状態になってからだった。
脱走したウルフマンに襲われ、サムは腹部を深く裂かれていた。助けようと駆けつけたダレンだったが、力が及ばず、ウルフマンに太刀打ちできなかったという。
横で倒れているウルフマンは、後から駆けつけたクレプスリーによって気絶させられていた。
サムはまだ意識があった。けれど、その瞳に映るものはすでに朧げで、腹部からは大量の血が流れ続けている。クレプスリーは無言で、自身の真紅のマントを脱ぎ、サムの体にそっとかけた。しかしマントはたちまち血を吸い、さらに濃く、どす黒く染まっていく。
「う、うぅ……」
かすかに声を漏らすサムを見つめながら、クレプスリーが静かに口を開いた。
「間もなくこの子は死ぬ。それはもはや避けられぬ。……だが、その魂だけなら救う術がある」
「……え?」
「その子の血を飲み干すのだ、ダレン」
「……っ!そんなこと、出来るわけないだろ!こんな時になんてことを!!」
バンパイアは人間の血をすべて飲み干すことで、その魂を取り込むことができる。死んだ魂は消えてしまうが、血と共に吸えば、その魂はバンパイアの中で生き続ける――そう聞いたことがある。
「できないよ……そんなの……僕にサムを殺せって言うの?」
ダレンの叫びに、横たわるサムがかすれた声で答えた。
「……飲んでよ……ダレン。……ダレンの中で生きられるなら……僕、飲んでもらいたい……。そしたら皆と……ずっと一緒にいられる……。ダレンがバンパイアでも……怖くないよ……だって、僕たち……友達でしょ……?」
喉をヒューヒュー鳴らしながら、それでもサムの目はしっかりとダレンを見ていた。
ダレンは肩を震わせ、目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「……ごめん……」
小さくつぶやいて、震える手でサムの首筋に爪を立てた。爪が皮膚をかすめ、数センチの傷口から温かい血が溢れ出す。
ダレンは初めて、自分の意思で人間の血を飲んだ。それはただ生き延びるためではなく――大切な友達の魂を、自分の中に宿すためだった。
サムはもう言葉を発さず、呼吸もどんどん浅くなっていく。ネアはその虚ろな瞳を静かに閉じ、静かにダレンの肩に手を添えた。
彼がサムを救うために血を飲んだ、その行動は、かつて彼女が自分の家族を守ろうとした時と重なっていた。
自分の恐れや限界を越えてでも、誰かを救いたいと思った──その気持ちは、痛いほどよく分かっていた。
だからこそネアは、何も言わず、ただ隣にいた。
そろそろ日が昇る頃だ。
私たちはサムを弔い、シルク・ド・フリークの仲間たちがいる場所へと戻った。草を踏む足音だけが静かに響く。
エブラがこちらに気づいて駆け寄ってきたが、サムが一緒でないことにはすぐに気づいたようだった。
「サムは……ちゃんと埋めてきた。警察にも連絡したよ。すぐに見つかって、ご両親のもとへ戻れるはずだ。……2人の言う通りだったんだ。人には、それぞれ居場所がある。ここは、サムが来ていい場所じゃなかったのかもしれない」
「……ダレン、これ」
そう言ってエブラが差し出したのは、サムが持っていたバッグだった。中には本や日記が入っていて、持ち物はそのままだ。
「長旅になるって言ってたし、腹ごしらえしよう。ダレン、何か食べたいものあるか?」
「ううん、あんまりお腹は空いてないんだ。でも……なんか、すごく食べたいものがある気がする」
ダレンは何かを思い出したように、サムのバッグの中を探る。そして手に取ったのは、見覚えのある瓶だった。
「それって……」
「うん。オニオンのピクルスだ」
それは、サムがずっと大事にしていたもの。
きっとサムの魂が、ダレンの中でまだ生きている証なのだろう。ダレンは目に涙を浮かべながら、そっとピクルスをひとつ口に運んだ。
こうして私たちは、宿営地を後にして長い旅へと出た。
もし、あのときサムと出会わなければ、彼には別の未来があったのかもしれない。けれど、これもまた“運命”。
決して逆らうことのできない、運命だったのだ。
次にサムの姿を見たのは、彼の体が真っ赤に染まり、直視できないほど無惨な状態になってからだった。
脱走したウルフマンに襲われ、サムは腹部を深く裂かれていた。助けようと駆けつけたダレンだったが、力が及ばず、ウルフマンに太刀打ちできなかったという。
横で倒れているウルフマンは、後から駆けつけたクレプスリーによって気絶させられていた。
サムはまだ意識があった。けれど、その瞳に映るものはすでに朧げで、腹部からは大量の血が流れ続けている。クレプスリーは無言で、自身の真紅のマントを脱ぎ、サムの体にそっとかけた。しかしマントはたちまち血を吸い、さらに濃く、どす黒く染まっていく。
「う、うぅ……」
かすかに声を漏らすサムを見つめながら、クレプスリーが静かに口を開いた。
「間もなくこの子は死ぬ。それはもはや避けられぬ。……だが、その魂だけなら救う術がある」
「……え?」
「その子の血を飲み干すのだ、ダレン」
「……っ!そんなこと、出来るわけないだろ!こんな時になんてことを!!」
バンパイアは人間の血をすべて飲み干すことで、その魂を取り込むことができる。死んだ魂は消えてしまうが、血と共に吸えば、その魂はバンパイアの中で生き続ける――そう聞いたことがある。
「できないよ……そんなの……僕にサムを殺せって言うの?」
ダレンの叫びに、横たわるサムがかすれた声で答えた。
「……飲んでよ……ダレン。……ダレンの中で生きられるなら……僕、飲んでもらいたい……。そしたら皆と……ずっと一緒にいられる……。ダレンがバンパイアでも……怖くないよ……だって、僕たち……友達でしょ……?」
喉をヒューヒュー鳴らしながら、それでもサムの目はしっかりとダレンを見ていた。
ダレンは肩を震わせ、目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「……ごめん……」
小さくつぶやいて、震える手でサムの首筋に爪を立てた。爪が皮膚をかすめ、数センチの傷口から温かい血が溢れ出す。
ダレンは初めて、自分の意思で人間の血を飲んだ。それはただ生き延びるためではなく――大切な友達の魂を、自分の中に宿すためだった。
サムはもう言葉を発さず、呼吸もどんどん浅くなっていく。ネアはその虚ろな瞳を静かに閉じ、静かにダレンの肩に手を添えた。
彼がサムを救うために血を飲んだ、その行動は、かつて彼女が自分の家族を守ろうとした時と重なっていた。
自分の恐れや限界を越えてでも、誰かを救いたいと思った──その気持ちは、痛いほどよく分かっていた。
だからこそネアは、何も言わず、ただ隣にいた。
そろそろ日が昇る頃だ。
私たちはサムを弔い、シルク・ド・フリークの仲間たちがいる場所へと戻った。草を踏む足音だけが静かに響く。
エブラがこちらに気づいて駆け寄ってきたが、サムが一緒でないことにはすぐに気づいたようだった。
「サムは……ちゃんと埋めてきた。警察にも連絡したよ。すぐに見つかって、ご両親のもとへ戻れるはずだ。……2人の言う通りだったんだ。人には、それぞれ居場所がある。ここは、サムが来ていい場所じゃなかったのかもしれない」
「……ダレン、これ」
そう言ってエブラが差し出したのは、サムが持っていたバッグだった。中には本や日記が入っていて、持ち物はそのままだ。
「長旅になるって言ってたし、腹ごしらえしよう。ダレン、何か食べたいものあるか?」
「ううん、あんまりお腹は空いてないんだ。でも……なんか、すごく食べたいものがある気がする」
ダレンは何かを思い出したように、サムのバッグの中を探る。そして手に取ったのは、見覚えのある瓶だった。
「それって……」
「うん。オニオンのピクルスだ」
それは、サムがずっと大事にしていたもの。
きっとサムの魂が、ダレンの中でまだ生きている証なのだろう。ダレンは目に涙を浮かべながら、そっとピクルスをひとつ口に運んだ。
こうして私たちは、宿営地を後にして長い旅へと出た。
もし、あのときサムと出会わなければ、彼には別の未来があったのかもしれない。けれど、これもまた“運命”。
決して逆らうことのできない、運命だったのだ。
