②若きバンパイア
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3章
あの町を出てから、ダレンは何日もひどく泣いていた。家族や友だちと別れてしまった寂しさを、ずっと口にしていた。その気持ちは痛いほど分かるからこそ、私は何も言えなかった。かける言葉はいくつも浮かんだけれど、同情するようなことはあえて言わず、ただ黙って彼の弱音に耳を傾けていた。
マダムを盗んだときの印象から比べれば、今の彼はずいぶん変わった。友だちを救うために、自らを犠牲にしてバンパイアになった男の子。
少しだけ、君への壁がなくなった気がした。
人間の血を飲まないダレンは、日に日に顔色が悪くなり、やつれてきている。棺に入れられた時の服のままだから、あちこちほつれてボロボロだ。本当に死人みたいだ。
外に出掛けると言い出した時は、一緒に行こうとしたけれど、ダレンには一人になれる時間も必要だと思い直し、静かに見送った。
けれど、帰ってきたダレンの顔を見た瞬間、胸にざらりとしたものが広がった。目を真っ赤に腫らして、うつむきながら戻ってきたその姿に、きっと、泣いたんだと察した。
ちょうど起きていたクレプスリーも、ダレンの顔を見てギョッとしたように眉を動かした。
ダレンは少しずつ話し始めた。
同じ年くらいの子どもに遊びに誘われたけれど意地の悪い子と小競り合いになって相手に大けがをさせてしまったそう。友達が欲しかっただけなのにバンパイアの力のせいで化け物扱いされてしまったと。
「……それはな、もう慣れるしかあるまいよ。次から気を付ければいいじゃないか」
「でもそれは友達って言わないよ。だって本当の友達は隠し事なんてしない!実はバンパイアなんです、なんて言えないだろう!」
クレプスリーの端的な言い返しにイラっときたのかダレンはその場で立ち上がった。
「おい、それはバンパイア共通の悩みってもんだぞ!そんなに重要な問題か!?」
「僕にとって友達は家族と同じくらい大切なものなんだ!あんたに僕の気持ちなんかわかるわけない!ねぇ、ネアは分かってくれるでしょ?」
ネアはしばらく口を閉ざしたまま、沈黙の中に視線を落とした。薪のはぜる音だけが聞こえる。
「……ごめん、うまく言えない」
ぽつりとこぼしたその声は、いつもより少しだけ弱々しかった。けれど、それでも言葉を選ぶように、ネアは続けた。
「私だって……全部、割り切れてるわけじゃない」
その横顔には、かすかに影が差していた。笑わない彼女の瞳に、ほんの少しだけ痛みが揺れていた。けれどその後、ネアはすぐにいつものように表情を引き締めて、言葉を飲み込んだ。
ダレンは言葉を返せなかった。ただ、ネアの横顔を見つめながら、胸の奥が少しだけ痛んで、火の揺れる鍋を見つめたまま、何かを飲み込むように静かにしていた。
沈黙の中、ふとクレプスリーが眉をひそめ、ぽつりと呟いた。
「すまん、ダレン。我が輩はお前を苦しめるために、バンパイアにしたわけじゃないんだ。我々は人とは違う。だからどうしたって……」
そこで彼は言葉を切り、何かを考えるようにうつむいた。
「……まてよ、人とは違う……」
ブツブツと呟きながら、何やら思いついたらしい。顔を上げたときには、目をキラキラさせていた。
「そうだ!何も四六時中、我が輩についていることもなかろう!なぜ気づかなかったのだ、我が輩は!」
「え……?」
ダレンが戸惑った声を漏らすと、クレプスリーは勢いよく立ち上がった。
「ダレン!お前に友達を見つけてやれるかもしれん! ただの人間ではない。我々と同じように“違う者”たちをな!」
あぁ、そういうことね。
「なぁ、ネア、ダレン。ここはひとつ、シルク・ド・フリークに戻って、仲間に入れてもらわんか?」
その名前を聞いた瞬間、ダレンの目がかすかに見開かれるのが見えた。
あの町を出てから、ダレンは何日もひどく泣いていた。家族や友だちと別れてしまった寂しさを、ずっと口にしていた。その気持ちは痛いほど分かるからこそ、私は何も言えなかった。かける言葉はいくつも浮かんだけれど、同情するようなことはあえて言わず、ただ黙って彼の弱音に耳を傾けていた。
マダムを盗んだときの印象から比べれば、今の彼はずいぶん変わった。友だちを救うために、自らを犠牲にしてバンパイアになった男の子。
少しだけ、君への壁がなくなった気がした。
人間の血を飲まないダレンは、日に日に顔色が悪くなり、やつれてきている。棺に入れられた時の服のままだから、あちこちほつれてボロボロだ。本当に死人みたいだ。
外に出掛けると言い出した時は、一緒に行こうとしたけれど、ダレンには一人になれる時間も必要だと思い直し、静かに見送った。
けれど、帰ってきたダレンの顔を見た瞬間、胸にざらりとしたものが広がった。目を真っ赤に腫らして、うつむきながら戻ってきたその姿に、きっと、泣いたんだと察した。
ちょうど起きていたクレプスリーも、ダレンの顔を見てギョッとしたように眉を動かした。
ダレンは少しずつ話し始めた。
同じ年くらいの子どもに遊びに誘われたけれど意地の悪い子と小競り合いになって相手に大けがをさせてしまったそう。友達が欲しかっただけなのにバンパイアの力のせいで化け物扱いされてしまったと。
「……それはな、もう慣れるしかあるまいよ。次から気を付ければいいじゃないか」
「でもそれは友達って言わないよ。だって本当の友達は隠し事なんてしない!実はバンパイアなんです、なんて言えないだろう!」
クレプスリーの端的な言い返しにイラっときたのかダレンはその場で立ち上がった。
「おい、それはバンパイア共通の悩みってもんだぞ!そんなに重要な問題か!?」
「僕にとって友達は家族と同じくらい大切なものなんだ!あんたに僕の気持ちなんかわかるわけない!ねぇ、ネアは分かってくれるでしょ?」
ネアはしばらく口を閉ざしたまま、沈黙の中に視線を落とした。薪のはぜる音だけが聞こえる。
「……ごめん、うまく言えない」
ぽつりとこぼしたその声は、いつもより少しだけ弱々しかった。けれど、それでも言葉を選ぶように、ネアは続けた。
「私だって……全部、割り切れてるわけじゃない」
その横顔には、かすかに影が差していた。笑わない彼女の瞳に、ほんの少しだけ痛みが揺れていた。けれどその後、ネアはすぐにいつものように表情を引き締めて、言葉を飲み込んだ。
ダレンは言葉を返せなかった。ただ、ネアの横顔を見つめながら、胸の奥が少しだけ痛んで、火の揺れる鍋を見つめたまま、何かを飲み込むように静かにしていた。
沈黙の中、ふとクレプスリーが眉をひそめ、ぽつりと呟いた。
「すまん、ダレン。我が輩はお前を苦しめるために、バンパイアにしたわけじゃないんだ。我々は人とは違う。だからどうしたって……」
そこで彼は言葉を切り、何かを考えるようにうつむいた。
「……まてよ、人とは違う……」
ブツブツと呟きながら、何やら思いついたらしい。顔を上げたときには、目をキラキラさせていた。
「そうだ!何も四六時中、我が輩についていることもなかろう!なぜ気づかなかったのだ、我が輩は!」
「え……?」
ダレンが戸惑った声を漏らすと、クレプスリーは勢いよく立ち上がった。
「ダレン!お前に友達を見つけてやれるかもしれん! ただの人間ではない。我々と同じように“違う者”たちをな!」
あぁ、そういうことね。
「なぁ、ネア、ダレン。ここはひとつ、シルク・ド・フリークに戻って、仲間に入れてもらわんか?」
その名前を聞いた瞬間、ダレンの目がかすかに見開かれるのが見えた。
