①奇妙なサーカス
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6章
マダムを取り返したその夜、劇場に来客があった。観客席にも誰ひとりいない静まり返ったホールに、ひときわ荒い足音が響く。
勢いよく扉を押し開け、まっすぐこちらへ駆けてきたのは――ダレン・シャンだった。息を切らし、汗を滲ませ、明らかに取り乱している。
「クレプスリー!マダムがスティーブを刺したんだ!お願い、助けて……助けてくれよ!」
私が教えた通り、劇場にやってきたダレン・シャン。
必ず来ると思っていた。
「僕、何でもする!だから……薬をスティーブに使ってよ!」
クレプスリーはその言葉に鼻で笑い、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
「くだらんな。貴様にとっては“友”でも、我が輩にとっては赤の他人だ。……あの小僧がここに来た晩、何を言っていたか覚えているぞ。“大人になったらバンパイアハンターになってやる”――と、な」
「それでも……今にも死にそうなんだよ!?じゃあ、どうすれば……どうすればいいんだよっ!?」
ダレンの叫びに、クレプスリーはひとしきり薄ら笑いを浮かべたあと、表情を一変させた。氷のように冷たい声で言う。
「貴様がバンパイアになれ、ダレン・シャン。そうすればこの解毒剤をスティーブ・レナードに使ってやろう。これは取引だ。何かを得るには、何かを捨てねばならん」
「……はっ!?正気なの?クレプスリー!」
思わず声が漏れた。いくらなんでも飛躍しすぎている。この子にバンパイアになれ、って。冗談にしたって笑えない。
「……わかった。僕を、バンパイアにしてくれ!」
嘘だろう……。ああ……もう一人、どうかしてる子がいた。
―
血の契約――それは、バンパイアに“なる”ための儀式。
身体の一部(大抵は両手の十指)に傷をつけ、バンパイアの血を注ぎ込むことで、相手を半バンパイアとして迎え入れる。
ダレン・シャンは、ほんの少しだけ震えながらクレプスリーの前に手を差し出した。
それに応えるように、クレプスリーはその鋭い爪を一本ずつ滑らせ、指に傷をつけていく。皮膚が裂け、血がにじみ、彼は痛みに顔をしかめた。
この一瞬で、彼の人生は変わる。
クレプスリーが自らの手を重ねると、熱を帯びた血が互いの体を巡った。バンパイアの血が静かに、けれど確かにダレンの中に入り込んでいく。しばらくして、クレプスリーは自分の唾液で傷口を塞いだ。感染と出血を防ぐため、バンパイアたちはこうして治療する。
「ねえ……これで僕、もうバンパイアになったの?」
「ああ。二、三日もすれば、体の変化に気づくはずだ」
まだ実感のない様子のダレン。彼の目には、全てが夢のように映っているのかもしれない。でもこれは現実。彼は今、自らの意志で半バンパイアとなったのだ――親友を救うために。
「おめでとう。これで君も私たちの“仲間”だね」
口元だけで微笑み、少しだけ肩をすくめる。祝福しているつもりはないけれど、この結末には少しばかり同情する。
「私も同じく“半バンパイア”。クレプスリーの弟子――ネア・クローフィールド」
そう名乗って手を差し出すと、ダレンは戸惑いながらも握り返してくれた。
「そっか……君もバンパイアだったんだ」
「来ればわかるって言ったでしょ?」
思わずネアの顔をじっと見つめるダレン・シャン。
「……何?」
「じゃあ、君も誰かを助けるためにバンパイアになったの?」
少しの間を置いて、ネアはふっと視線を逸らしながら言った。
「……まあね。でも、今は教えてあげない」
語るべき過去は、まだ胸の奥にしまっておく。
ただひとつ確かなのは、この夜から、私たちの運命が大きく動き始めたということ。
マダムを取り返したその夜、劇場に来客があった。観客席にも誰ひとりいない静まり返ったホールに、ひときわ荒い足音が響く。
勢いよく扉を押し開け、まっすぐこちらへ駆けてきたのは――ダレン・シャンだった。息を切らし、汗を滲ませ、明らかに取り乱している。
「クレプスリー!マダムがスティーブを刺したんだ!お願い、助けて……助けてくれよ!」
私が教えた通り、劇場にやってきたダレン・シャン。
必ず来ると思っていた。
「僕、何でもする!だから……薬をスティーブに使ってよ!」
クレプスリーはその言葉に鼻で笑い、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
「くだらんな。貴様にとっては“友”でも、我が輩にとっては赤の他人だ。……あの小僧がここに来た晩、何を言っていたか覚えているぞ。“大人になったらバンパイアハンターになってやる”――と、な」
「それでも……今にも死にそうなんだよ!?じゃあ、どうすれば……どうすればいいんだよっ!?」
ダレンの叫びに、クレプスリーはひとしきり薄ら笑いを浮かべたあと、表情を一変させた。氷のように冷たい声で言う。
「貴様がバンパイアになれ、ダレン・シャン。そうすればこの解毒剤をスティーブ・レナードに使ってやろう。これは取引だ。何かを得るには、何かを捨てねばならん」
「……はっ!?正気なの?クレプスリー!」
思わず声が漏れた。いくらなんでも飛躍しすぎている。この子にバンパイアになれ、って。冗談にしたって笑えない。
「……わかった。僕を、バンパイアにしてくれ!」
嘘だろう……。ああ……もう一人、どうかしてる子がいた。
―
血の契約――それは、バンパイアに“なる”ための儀式。
身体の一部(大抵は両手の十指)に傷をつけ、バンパイアの血を注ぎ込むことで、相手を半バンパイアとして迎え入れる。
ダレン・シャンは、ほんの少しだけ震えながらクレプスリーの前に手を差し出した。
それに応えるように、クレプスリーはその鋭い爪を一本ずつ滑らせ、指に傷をつけていく。皮膚が裂け、血がにじみ、彼は痛みに顔をしかめた。
この一瞬で、彼の人生は変わる。
クレプスリーが自らの手を重ねると、熱を帯びた血が互いの体を巡った。バンパイアの血が静かに、けれど確かにダレンの中に入り込んでいく。しばらくして、クレプスリーは自分の唾液で傷口を塞いだ。感染と出血を防ぐため、バンパイアたちはこうして治療する。
「ねえ……これで僕、もうバンパイアになったの?」
「ああ。二、三日もすれば、体の変化に気づくはずだ」
まだ実感のない様子のダレン。彼の目には、全てが夢のように映っているのかもしれない。でもこれは現実。彼は今、自らの意志で半バンパイアとなったのだ――親友を救うために。
「おめでとう。これで君も私たちの“仲間”だね」
口元だけで微笑み、少しだけ肩をすくめる。祝福しているつもりはないけれど、この結末には少しばかり同情する。
「私も同じく“半バンパイア”。クレプスリーの弟子――ネア・クローフィールド」
そう名乗って手を差し出すと、ダレンは戸惑いながらも握り返してくれた。
「そっか……君もバンパイアだったんだ」
「来ればわかるって言ったでしょ?」
思わずネアの顔をじっと見つめるダレン・シャン。
「……何?」
「じゃあ、君も誰かを助けるためにバンパイアになったの?」
少しの間を置いて、ネアはふっと視線を逸らしながら言った。
「……まあね。でも、今は教えてあげない」
語るべき過去は、まだ胸の奥にしまっておく。
ただひとつ確かなのは、この夜から、私たちの運命が大きく動き始めたということ。
