●ときめき10題
8.真面目な顔
「シグリッ!! 危ねぇッ!!」
がっと首根っこを後方に引っ張られた。
バランスを崩してシグリが後ろへと退く。
「……あ」
目の前を勢いよく荷馬車が駆け抜けていった。
危うくぶつかりそうだったところをヴィヴィに引き寄せられ助かった。
ただその瞬間、一瞬とはいえ、男に触れた。
ジュウッと音を立てて、男の腕の肌を焼いた。
「……大事ないか?」
それなのに、ヴィヴィは痛みを表に出さない。
火傷を負ったはずのその部分を見せないよう胴体の後ろにさっと隠す。
普段の引き締まりのない表情からうってかわって真剣な表情で聞かれれば、シグリはなかなか言葉が出てこない自分を呪った。
「……すまないな」
「何言ってんだ。お嬢が無事で何よりだろ」
カラッと何も無かったように言われる。
ふっと胴体に隠されていた腕が現れた。火傷の後はない。
吸血鬼だから回復にかかる時間も異常に早い。
けれど、痛いものは痛いはずだ。
共にいることで彼に苦痛を強いていることに、ぐっとシグリの胸は締め付けられる。「おい、大丈夫か?」
真面目な顔で聞かれる。
こういう時、なんと返したらよいのだろう。
明確な答えをまだ少年は得てはいなかった――。
【END】
「シグリッ!! 危ねぇッ!!」
がっと首根っこを後方に引っ張られた。
バランスを崩してシグリが後ろへと退く。
「……あ」
目の前を勢いよく荷馬車が駆け抜けていった。
危うくぶつかりそうだったところをヴィヴィに引き寄せられ助かった。
ただその瞬間、一瞬とはいえ、男に触れた。
ジュウッと音を立てて、男の腕の肌を焼いた。
「……大事ないか?」
それなのに、ヴィヴィは痛みを表に出さない。
火傷を負ったはずのその部分を見せないよう胴体の後ろにさっと隠す。
普段の引き締まりのない表情からうってかわって真剣な表情で聞かれれば、シグリはなかなか言葉が出てこない自分を呪った。
「……すまないな」
「何言ってんだ。お嬢が無事で何よりだろ」
カラッと何も無かったように言われる。
ふっと胴体に隠されていた腕が現れた。火傷の後はない。
吸血鬼だから回復にかかる時間も異常に早い。
けれど、痛いものは痛いはずだ。
共にいることで彼に苦痛を強いていることに、ぐっとシグリの胸は締め付けられる。「おい、大丈夫か?」
真面目な顔で聞かれる。
こういう時、なんと返したらよいのだろう。
明確な答えをまだ少年は得てはいなかった――。
【END】