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●ときめき10題

7.こっそり目で追いかける

 うっかりしていた。
 思わず出てしまった“俺”という言葉。
 昼食の相談をしていたとき、ヴィヴィが発見したピザ屋にいかないかという話になり、「俺もそこがいいと思う」と返してしまったのだ。
 シグリは普段から自分を言い表すのに“私”という言葉を使う。
 その為か、驚いたようにヴィヴィは目を大きく開くと、意味深そうに「へーえ」と言葉を漏らした。
「う、うるさいぞ!! ちょっと間違えただけだ!!」
 頬を赤らめながら、シグリが吠える。
「はいはい、そうですね、お嬢だって人間だもの。間違えますね」
 口元をニヤニヤとさせながらヴィヴィが言う。
 その発言はシグリの頬をさらに赤く染め上げるだけのものだった。

 こっそり、追いかけている。
 だから、つい、時々間違えてしまう。
 君の言動をそっくりそのまま、自分もしてしまう。
 でもそれだけ、距離が近いということではないか。
 決して、触れてはならない存在だというのに。

「じゃ、そこで決まりだな」
「おう、行くぞ」
 二人の足が目的地に向けてスタートする。
「お嬢、何頼む」
「赤いやつ」
「トマトたくさん載っているやつか」
「ああ」
 どうせくだらないのが人生だ。
 それでも、二人でいればくだらない退屈さなどどこかへ飛んで行ってしまう。
 一体、どこに跳んで行ってしまうのだろう。

【END】
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