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●ときめき10題

6.ふと見せた弱さ

 シグリには不満なことがある。
 あの図体のでかい生き物のことだ。
 身長が高いのが気に入らない。目線が違うのも気に入らない。強いのも気に入らない。
 気に入らないところをあげれば、たくさん出てくるが、一番の不満は大切なことは隠してしまうところだ。
「おい、何してるんだ、子供《ガキ》はもう寝ろ」
 夜遅くまで、外出してきた男が何を言う。
 胴の後ろに隠している右手。また怪我して帰って来たのか。
「ほら、とっとと横になれ」
 あくまで優しい。甘い声。
 苦しいのを我慢して、そこまで自分に隠さなければならないものとは一体なんなんだ。
 シグリはきゅっとヴィヴィを眼光で刺した。
 睨むわけでも、非難するわけでもない。
 この男を透視したい。
 この男の目に映るものを知りたいと思った。
「……なあ、シグリ」
 声音が変わった。
 おずおずと少年は男に近づく。
「今日、疲れたな」
「ああ」
「いつまでも一緒にいてくれよ」
 その言葉に少年の身体を電流が駆け巡った。
 ――これは、弱音だと。お前が吐いた、私にお前が吐いた弱音だと、そう思ってもいいのか。
「シグリ。お前はもう寝ろ」
 相変わらず、甘ったるい声。
 それでも今日はなんだかちょっと違う。

【END】
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