●ときめき10題
4.あの日の回想
「頼む!!」
「断る!!」
花弁《かべん》をちらしたかのような華麗なレースが波を打ち、彩るリボンが鮮やかに宙を舞う。
――そう、少女服。
人類の叡知と可愛さへの欲望を終結させて作られた至高の一作。
その質感、細部までのこだわり、見ているだけで、萌え滾るような魔法がこの服には詰め込まれている。
「そこをなんとか!!」
男・ヴィヴィは、地面に肘をついた。手に持つフリリーなワンピースが汚れないように細心の注意を払って。
「その光景は見慣れた」
ヴィヴィを見てあきれはてるは、少年・シグリ。――そう、少年である。
しかし、その身を纏うはこれもまた少女服。
「一体、お前は私に何着、着せれば気が済む?」
そう、ヴィヴィは手に入れた新たな至宝を蝶も目眩む美少年に着せようと必死に懇願しているのだった。
「いいか、シグリ。これだけは真面目に聞いてくれ」
「え、あ、ああ」
突然シリアスな口調になったヴィヴィに、シグリは意表を突かれてきょとんとした。
「あのな、可愛いっていうのは、人類の持つ最も崇高で正義と愛に満ち溢れた至高の存在なんだよ」
「あ、またそれか」
けれど、シグリの態度はころっと冷たくなる。
「だからぁ!! お願い致しますッ!! どうか、どうか、この子を着てあげてくださいッ!!」
熱の入った男の土下座を見て、シグリは大きくため息を吐いた。
「初めて私が、そういうものを着た時のことを覚えているか?」
「ああ」
「私は当時何も知らず、お前が言うがままに身に着けた。あの時はまだ良かったな……」
ヴィヴィも初めてシグリに少女服を着せた、あの日へと心を馳せた。美しい回想に、ほうっと心が温かくなる。
「だが、今はダメだ」
「な、な」
ガツンと頭から落とされた一言にショックで口が閉まらないヴィヴィ。
「こういうのは動きにくい。よって却下だ」
なぁんだ、そういうことかぁ。
それじゃあ、可愛くて動きやすいのを選べばいいんだぁ。
ショックから晴れて立ち上がったヴィヴィの目に炎が灯った。
「分かったぞ、シグリ。待ってろよ。お前にふさわしい最高の服を俺が用意してやるからな」
そういうと男は意気揚々と街に繰り出していく。
その背中を見ながら、少年はひとり呟いた。
「……あやつ、何か勘違いしているな」
【END】
「頼む!!」
「断る!!」
花弁《かべん》をちらしたかのような華麗なレースが波を打ち、彩るリボンが鮮やかに宙を舞う。
――そう、少女服。
人類の叡知と可愛さへの欲望を終結させて作られた至高の一作。
その質感、細部までのこだわり、見ているだけで、萌え滾るような魔法がこの服には詰め込まれている。
「そこをなんとか!!」
男・ヴィヴィは、地面に肘をついた。手に持つフリリーなワンピースが汚れないように細心の注意を払って。
「その光景は見慣れた」
ヴィヴィを見てあきれはてるは、少年・シグリ。――そう、少年である。
しかし、その身を纏うはこれもまた少女服。
「一体、お前は私に何着、着せれば気が済む?」
そう、ヴィヴィは手に入れた新たな至宝を蝶も目眩む美少年に着せようと必死に懇願しているのだった。
「いいか、シグリ。これだけは真面目に聞いてくれ」
「え、あ、ああ」
突然シリアスな口調になったヴィヴィに、シグリは意表を突かれてきょとんとした。
「あのな、可愛いっていうのは、人類の持つ最も崇高で正義と愛に満ち溢れた至高の存在なんだよ」
「あ、またそれか」
けれど、シグリの態度はころっと冷たくなる。
「だからぁ!! お願い致しますッ!! どうか、どうか、この子を着てあげてくださいッ!!」
熱の入った男の土下座を見て、シグリは大きくため息を吐いた。
「初めて私が、そういうものを着た時のことを覚えているか?」
「ああ」
「私は当時何も知らず、お前が言うがままに身に着けた。あの時はまだ良かったな……」
ヴィヴィも初めてシグリに少女服を着せた、あの日へと心を馳せた。美しい回想に、ほうっと心が温かくなる。
「だが、今はダメだ」
「な、な」
ガツンと頭から落とされた一言にショックで口が閉まらないヴィヴィ。
「こういうのは動きにくい。よって却下だ」
なぁんだ、そういうことかぁ。
それじゃあ、可愛くて動きやすいのを選べばいいんだぁ。
ショックから晴れて立ち上がったヴィヴィの目に炎が灯った。
「分かったぞ、シグリ。待ってろよ。お前にふさわしい最高の服を俺が用意してやるからな」
そういうと男は意気揚々と街に繰り出していく。
その背中を見ながら、少年はひとり呟いた。
「……あやつ、何か勘違いしているな」
【END】