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●ときめき10題

3.守ってくれた背中
「痛ててて……」
 ヴィヴィが顔をしかめながら帰ってきた。
「……ヴィヴィ」
 かける言葉が見当たらず、シグリは小声で彼の名前を呼んだ。
 先刻、シグリの聖女の血の臭いを嗅いで、理性を失った闇の眷属たちの襲撃に遭った。
 ヴィヴィがやつらの気をひいている間にシグリは先に安全地帯へと逃れていた。
「おう、大丈夫か?」
 気丈そうにふるまうが男の顔色の悪さを見ると疲労が溜まっているのがわかる。。
 襲撃はよくあることとはいえ、積み重なれば大きな痛手にもつながる。
 人間と違い、吸血鬼は回復能力が高い。
 傷を受けてもすぐに治癒している。
 けれど、連続して攻撃を受けていれば、ダメージはたまるし、回復することによってたまった疲労が彼を追い詰める。
 そして“血”が足りなくなければ、理性を失う。
 ただの荒れ狂う化け物になってしまう。
 自分の血を分けてやりたいとも思うが、それも彼の傷口に塩を塗り込む――どころは破滅をもたらす行為だ。
 聖女の末裔として生まれたシグリには聖女の血が流れている。
 触れただけでも吸血鬼を燃やしてしまう体質なのだから、血を分け与えたらどうなってしまうのか全く見当がつかない。
 シグリはぎゅっと唇を噛んだ。
 自分はわからないことだらけだ。
 何故、自我を失った吸血鬼たちが、破滅を具現化したような|自分《聖女の末裔》に襲い掛かってくるのか。
 何故、自分は吸血鬼たちを灰にする能力を持って生まれて来たのか。
 何故、この男は――。
「大丈夫ではない」
 シグリが感情を殺した淡々とした口調でヴィヴィに返す。それに動揺するヴィヴィ。
「え、お、おい⁉」
「お前が、大丈夫ではないだろう」
 休め、と言っているのだと分からせるのに、時間がかかった。
 やつとはうまくコミュニケーションが取れない、そのじれったさと、やつには直接的にストレートな言葉を吐けない自分の不思議な曖昧さに、シグリはぎゅっと胸を締め付けられる。
 本当は聞いてみたい。
 何故、お前はそうまでして、私を守ろうというのか。
 何故、お前は――。
 守ってくれたあの男の背中の秘密を知りたいと思う。

【END】
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