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 雨の降る日だった。
 排水の遅い都市の道路の上を水たまりを蹴散らして馬車が行きかっている。
「たっく、こんな雨のでも、外に出かけるやつは出かけていくんだな」
 ヴィヴィは眠たそうな眼をこすりながら、ベランダから下界を見下ろしていた。
 どこからか、こもったピアノの音が聞こえてくる。
 降雨の音にまぎれるために今日なら思いっきり弾けるのだろう。
 メロディは情熱的に荒れ狂っている。
 聞き馴染みのあるポピュラーな楽曲だったため、気だるげにヴィヴィの鼻歌がメロディを追いかけた。
「ヴィヴィ、そこに居たら冷える」
 室内からシグリが心配そうに彼を覗き込んでいる。少年の金髪が湿気を吸ってゆるやかに波を打っていた。
「これじゃあ、干せねぇな」
「ああ」
 連日の雨で溜まってしまった洗濯物の話題だろうとシグリが首を縦に振った。
「それが考え事か」
「いや、それ以上に大きな問題はたくさんあるだろ。頭を抱えてしまうような」
「例えば?」
「いろいろさ。お前も困っていること、ないか?」
「ある」
「どんな?」
「このままじゃ、体を冷やしてしまうぞ」
 シグリの発言にヴィヴィの目が見開かれた。その後、ふっと軽い吐息と共に笑みをこぼしてシグリの居る温かな室内に足を踏み入れた。
 洗濯日和はまだ遠く、それでも、彼との距離と比べれば。

【END】
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