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おそろい

 それはシグリにとって初めての光景だった。
 日曜の広間は人々の活気であふれている。市民によるフリーマーケットが催されている。
「そこのお嬢ちゃん。採れたての果実はいかがかね」
「ほう、美味そうだな」
 声をかけられたのはシグリのはずなのだが、ヴィヴィが反応し、屋台に並べられた果実を物色する。
「お前は、何がいい?」
 ヴィヴィの問いに少年は「なんでもいい」と一言返す。
――お嬢ちゃん。
 シグリはれっきとした男児だ。
 だが、身にまとうはフリルとリボンの散らばるワンピース。
 本人の趣味ではない。隣で果物を選んでいる男の趣味に合わせているだけだ。
 ふと、少年は屋台に果物以外の品物がまぎれていることに気が付いた。白地のマグカップが二つ。
「ああ、それはね。数年前に買ったのはいいんだけれど、一度も使ったことが無くてね」
 シグリのカップをみる視線に気がついた店主がシグリに声をかける。
「どうした? 気に入ったのか?」
 シグリの変化に気が付いたヴィヴィがにやにやとした笑みを浮かべた。
「いや、そうではない」
 ぶっきらぼうにシグリは答える。しかし、ヴィヴィは代金を払うとシグリの手にマグカップを一つ乗せた。
「何故」
 ヴィヴィの行動に茫然としているシグリにヴィヴィが真剣そうな表情で告げた。
「お前、欲しいものくらい、俺に言えよな」
 彼のくれたマグカップは温かい。てのひらでそれを包み込む。シグリは口を開いた。
「もう一つ欲しい」
「へ?」
「二つじゃなくちゃ、意味がない」

【END】
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