●ときめき10題
10.あの人の声
私を呼ぶ彼の声が、私を強くする。
「シグリ、おい、シグリッ!!」
瞼を開けると、まっさきに網膜に焼き付いてくる美しい底なしの黒。
あの吸血鬼の男の顔が視界いっぱいに広がっていた。
「ここは……?」
シグリは上体を起こしながら、彼に聞いた。
「河原か」
辺りを見て聞くまでもなかったことに気が付く。
散歩中に揺れる若草。
あの上に寝そべって空でも見たら気持ちよさそうだ、その誘惑に負けて頭上を見上げていたら、眠くなってしまった。
そこをこの男に発見されたのだろう。
「おい、大丈夫か?」
宙に浮いたままの手は怪しくうろたえる。
触りたいが、触れない。
触れれば彼の肉を焼いてしまう、シグリがそういう身体だからだ。
「ああ」
なるべく、優しく微笑むようにしている。
この感情がこの人に届くわけではないだろうが。
「もう日も暮れるし、帰るぞ」
「ああ」
つなぐことはない手を振って帰ろう。
そのかわり、つながるのは、お前の言葉だ。
私の名を呼ぶ、お前の声で――。
【END】
お題提供:お題配布サイト「TOY」 http://toy.ohuda.com/
お題、お借りしました。ありがとうございました! 楽しかったです。
私を呼ぶ彼の声が、私を強くする。
「シグリ、おい、シグリッ!!」
瞼を開けると、まっさきに網膜に焼き付いてくる美しい底なしの黒。
あの吸血鬼の男の顔が視界いっぱいに広がっていた。
「ここは……?」
シグリは上体を起こしながら、彼に聞いた。
「河原か」
辺りを見て聞くまでもなかったことに気が付く。
散歩中に揺れる若草。
あの上に寝そべって空でも見たら気持ちよさそうだ、その誘惑に負けて頭上を見上げていたら、眠くなってしまった。
そこをこの男に発見されたのだろう。
「おい、大丈夫か?」
宙に浮いたままの手は怪しくうろたえる。
触りたいが、触れない。
触れれば彼の肉を焼いてしまう、シグリがそういう身体だからだ。
「ああ」
なるべく、優しく微笑むようにしている。
この感情がこの人に届くわけではないだろうが。
「もう日も暮れるし、帰るぞ」
「ああ」
つなぐことはない手を振って帰ろう。
そのかわり、つながるのは、お前の言葉だ。
私の名を呼ぶ、お前の声で――。
【END】
お題提供:お題配布サイト「TOY」 http://toy.ohuda.com/
お題、お借りしました。ありがとうございました! 楽しかったです。
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