ぱっと顎から手を離された。

ボタボタと精神が限界で、涙が零れ落ちていく。
首に伝い、洋服に染みを作った。

「…今日はこれぐらいにして、明日から本格的に頑張りましょうか？」

そう言うとカメラちゃんに録画を止めるように指示していた。

「仕事帰り、ですもんねぇ…もう深夜ですし…あァ、お風呂入ってきていいですよォ❤」

そう言うと首輪と手錠をテキパキと外して、「さあさあ」と背中を押してバスルームへ連れていかれた。

「お着替えとバスタオルは置いておきますので、ごゆっくり…❤」

そう言うと、ドアを閉められた。


バスルームも綺麗にしてある。
本当にホテルみたいで、少しテンションが上がってしまう。
さっきまで、悲しかったはずなのに…。

鏡を見ると、アイメイクが涙で溶けて滲んで、恐ろしい顔になっていた。

考えていても仕方ないので、取り敢えずお風呂に入ってしまおうと、服を脱いだ。


・・・・・・・


しっかりと汚れていた手足も綺麗にして、用意されていた洋服に袖を通して鏡を見た。
どうやって用意したのかわからないが、サイズは図ったんじゃないかと思うぐらいにぴったりだった。
さらっとした触り心地のいい綿のような生地に、胸元とスカート裾にレースが施されていた…。
真っ白なロングネグリジェ？パジャマワンピース？
いつもなら絶対に袖を通さないものだ…。

私の意志など、ここでは本当に何の役にも立たないんだろう…。

備え付けのドライヤーで、長い髪を乾かして櫛で梳いた。
鏡を見て、ドアから出る。


「あ、お風呂気持ちよかったですか？簡単ですけど、ご飯もありますから食べてくださいね。」

出てすぐ右手を見ると、ブラックがパソコンで何か作業をしていた。
デスクにはコンビニのおにぎり２個・野菜ジュース・大きいお茶２本が机に置かれていた。

「コップは備え付けのモノを適当に使ってくださいね…」

『は、はぃ…。』

そう言いながらこっちを見ようとせず、作業に夢中になっている。
言われた通り、自分でコップを持ってきて、お茶を汲んでから用意されたおにぎりを頬張った。

木の板で塞がれた窓から、微かに聞こえる虫の鳴き声と、ブラックが作業しているパソコンのタイピング音。
廃墟なので、驚くほど静かで小さな音でも大きく聞こえるような気がする。

何だかんだでお腹が空いていたので、おにぎりを食べるのもあっという間だった。

食べ終わって野菜ジュースを飲んでいると、「さて、」と呟いたブラックがパソコンを閉じた。

思わず、体が強張ってしまう。
恐らく、打たれたであろう後頭部も痛いままで、体が温まったせいかより響く…気がする。

「じゃあ、こっちに来てください。」