この人は、なにか訳があって私をここに、――

そう一縷の望みを抱こうとした刹那、鈍い銀色に両手を拘束された。

『あ…、』

やっと男の前で発声できた時には、両手首は手錠を掛けられて自由を奪われてしまっていた。
自身の情けなさに胸が苦しくなって息が上がる。
嫌な汗が噴き出てくる。


「あ…後、これも…❤」

男は当然とでもいうように、両手に持っていたもので私の首を拘束し始めた。

「カカッ…❤苦しくない、ですかァ？❤」

「首が締まらないようにしましょうねぇ…❤」

ガチャガチャと音を立てて、うまいように調整している目の前にある男の顔は、薄ら目を細めていて、とても真剣に見える。
きめ細かい肌…、長い睫毛。
人間離れした三白眼と、犬歯が並ぶ大きく裂けた口許。
真っ赤な舌は長くて、舌先が蛇のように割れていた。

「じーっ！」

よく見ると小さいハンディカメラ？のような生き物も、男の周りを飛び回っていた。

赤い光が点灯してる…。録画？してる時みたいな……。


「…よーくお似合いです❤貴女には赤色が似合うと思ったんです！」

じゃらっと鎖の付いたリード？の金属音を奏でて、持ち手の付いた先を手首にぐるっと巻いて嬉々と褒めてくる。

「あァ……、遅い自己紹介となってしまいましたが…オレちゃんはブラック。悪魔系ヨーチューバ―です。」
「この子はカメラちゃん。オレちゃんの大事な助手です。」

『……そ、…で、すか。』

話す言葉が見つからず、そんな興味のない相槌しか打てなかった。

ブラックは、そんな私を見下ろし、歪む口許に手を当て隠してささめいた。
真っ黒な深淵を思わせる黒い瞳で、私の中身など筒抜けなのではないかという恐怖心すら抱いてしまう。


「つまらない反応ですねぇ～。気にならないんですか？これから自分がどんな目に合うのか。」

『……私をどうするんですか？』

「２週間したら、ここから出してあげますよ❤」

希望の光を纏った回答が、まるである小説のようだ。
罪人の元に垂らされた蜘蛛の糸の様に、生き残る一つの手段として導き出す。

ただこの悪魔があの小説のような蜘蛛の糸を垂らしてくれるお釈迦様なんかじゃなく、今いるこの地獄を作り出した閻魔様であることは明白で……

『…どうせ、嘘ですよね？そもそもなんで、私がこんなところまで連れてこられなきゃいけないんですか？』

「カカカッ…っ❤嘘がお嫌いなんですねぇ…！いい感じにヒートアップしてくれて、こっちも助かりますよォ。」

そう嘲るように言うと、目の前に黒いノートパソコンを取り出した。