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because you're mine forever
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週末の朝はいつも惰眠を貪る。
日頃の疲れを癒す意味でも、そうやって何にも思考を奪われずにいれば、体も脳も安息に付けるから。
レースカーテン越しに、起床を促すような白い朝日を浴びて、身じろいだ。
体感的に数十分毎?だろうか。
そろそろ起きようかと藻掻く理性と、肌触りのいいタオルケットの感触に酔い痴れて足をバタつかせ、目覚めたくない自分と戦う。
この一見無駄にも思える時間がとても好きで、結局都合のいい解釈で自分を丸め込む。
『お休みだもんねぇ…?』
ふっと頬を緩ませて呟く。
誰に届くでもない一言は、空を切ってふっと自分の胸に落ちて消えた。
すると、その行為に終わりを告げるかのように、ダイニングへ続くドアの開く音がした。
「まだ寝てるんですか?」
ギクリと一瞬肩を震わせる。
ブラックのため息交じりの息を吐くような呟きが響く。
愚鈍な自分を戒めている声色に感じてしまい、何となく起き上がりにくく、寝たふりをして様子を覗ってみた。
こっちへ向かう足音がする。
私を起こすためか、いつもより少しだけ音が大きい気がする。
顔を窓際に向けていて、寝たふりもしている現状。
ブラックの表情も何も見えないためか自身の聴力に集中が集まった。
相変わらず、朝日が降り注いで、瞼の裏まで焼き付る白で埋め尽くされる。
そんな眩むような強い光に、三叉神経まで侵されているのか痛みすら覚えた。
瞼を薄く開くと、ベッドシーツの皺が反射して、光沢がかっていて綺麗だ。
そこに置かれた自身の手が、一瞬揺れて、体ごと沈む感覚がした。
ギシっとスプリングの軋む音ともに、ブラックが後ろに寝て体がぴったりと重なっていた。
肌の出る部分から、直接ブラックの体の感触と体温が伝わり、思わず強張ってしまう。
吐く息すら、思うように出せない緊張感と、狭いベッドに二人で寝ているため圧迫感も合わさって、どうして寝たふりなんてしたのだろうと後悔し始めた。
そんな葛藤しているとは知らずにか、腰からするっと細い指が撫でてきて、流れるように肩からすっぽりと視界にある私の手を覆うように被さった。
異性特有の骨ばった手に覆われた自身の手がぎゅっと握られている。
その行動に、鼓動が一際大きく跳ねた。
「……、つまんないんですけど。」
相手にしてもらえなくて拗ねた子供みたいな言い分に、何だかもう今すぐ起きてしまいたくなる。
けれど、いつも見えない本音?というか、そういうものを見てみたい気持ちがあった。
被さる掌から伝わる体温が、革手越しでもとても熱く感じて、じわじわと境目を超えて私の中に溶けていくみたいだ。
それが心地いいのに何だか苦しくて、こんなことで簡単に胸が締め付けられて動けなくなってしまうなんて、まるでもう熱にでも浮かされたみたいだなって、自覚せざるを得なくて……。
その自嘲めいた気持ちに対抗心を表すように、再びぎゅっと目を瞑った。
私に普段出さない本音を聞いてみたいし、私の知らないことも知ってみたいなって思う。
「名前さん?休みだからってあんまりお寝坊すると、リズムが狂って月曜日が大変ですよぉ?」
(ごもっとも……。)
心の中でそう返事をして、スゥ―っといかにも今は寝ていますとでも言う様な寝息を立ててみる。
するとゴソゴソとまた動くような感覚とともに、ブラックの重なっていた掌が移動して、鎖骨より下の、胸元をぐっと抑えこんできた。
細い指先が若干食い込む強さで、心臓ごと押さえつけられているように感じて……、一瞬息をするのが苦しくなる。
「ねぇ、名前、起きてください…?」
と、その瞬間に茹だる様な熱っぽさを帯びた低音が、囁かれた。
敬称の外れた名前で呼ばれる。
息がかかる距離で囁かれたため、その吐息と共に深く鼓膜を震わせて突き刺さった。
ブラックの癖の強い黒髪は、毛先を揺らして私の耳朶を掠り意図なく弄んでいた。
こんな時、きっと意地の悪い表情で、口を裂いて笑っているんだとぼんやり思った。
『…っ』
短い呻きに似た吐息が、つい口から洩れてしまう。
バクバクと心臓が煩い。まるで、体中が心臓にでもなったみたいだ。
自分自身でも鼓膜に響くのだから……恐らく、伝わっているんじゃないかって思う。
「わ…、凄い心臓の速さですねぇ。」
やっぱり、聞こえてしまっていた……。
恥ずかしさで息が上がるのを、何とか整えて後ろを振り返った。
そこには、案の定とでもいうべきか、嘲るような表情で笑っているブラックがいた。
大きな目を緩ませるように細めていて、日光に照らされ、ふわふわとした黒髪はより艶を纏ってご機嫌に見えた。
「カカカッ♥心拍数、上がってますよ?可愛いですねぇ❤」
さっき胸を押したのはもしかして私の動悸に変動がないかを確かめるため…?私の寝たふりを暴くためだったのかと、気付いて尚更恥ずかしくなった。
…抵抗している自分が哀れに思えてしまう。
口許まで出そうになっているたくさんの文句に似た想いが、ぐるぐると出口を求めて喉に引っかかるが、結局飲み込んで後味の悪い思いで溜息を吐いた。
『…ハァ…。その、急に、名前を呼び捨てにするのやめてくれないっ?』
前回就寝時に名前を呼ばれてそれを言えなかったのもあり、どうせ響かないことも承知の上で、愚痴をこぼした。
それを聞くと、一瞬目を見開いた後、考えるようにして目線を斜め上に逸らして、
「寝る前……、言いましたっけ?」
と記憶にないような素振りを見せた。
『言ったっ!絶対に言った!!!』
と騒ぐ私を尻目に、どうでもよさげに「…そうなんですねぇ…?」と意味のない相槌を打ち、起き上がると、私が包っていたタオルケットを全部剥いで、軽く放って足元に置いた。
「まあ…理由があるとすれば、“名前さんが”、そんな反応するから揶揄いたくなるんだと思いますよ…?❤」
小首を傾げて、私を見下ろして悪戯に笑んだ。
日光によって、光の粒を纏った睫毛が色彩を薄めて視線を飾り立ててとても綺麗で…紅蓮を思わせるもう片方の赤も、合わせて細く緩んでいた。
半身だけ体を起き上がらせ、今の自分と同様にどうしようもない手を、肘を掴むことで何とか落ち着かせようとした。
ブラックには何を言ったとしても、煙に巻くのがうますぎるので…せめて感情を出さないようにしなければ、心身ともに持たない。
弱点をさらけ出すようなものだ。
頭を下に傾けることで、垂れた自身の長い髪で、赤いであろう顔をせめて隠すしかなく…。
『もう、わかった…。』
納得を口にすることで、この場を終わらせることにした。
・・・・・・・
ダイニングで朝食を取る。
いつものように、目玉焼きとトーストを頬張っていた。
『そう言えば、ブラックは……悪魔なんだよね?』
トーストを齧りながら、そう問いかけた。
見たいものがあるわけでもなく、何となく惰性でつけられた本日のニュースとやらが、ブラウン管に映され音声と共に流れていた。
左上に時刻が表示されている。
朝9:00を回ったところだ。
「そうですけど。今更…なんですか?それとも、やっと…なんですか?オレちゃんのこと、知りたくなりました?」
ブラックはもう食べ終わり、いつもの様にカップのコーヒーを飲み込んだところだった。
ソーサーに最低限の音だけを鳴らして、カップを置いた。
いつもの様子だが、慣れた仕草が綺麗で毎度のごとく見惚れてしまう。
『……だって、聞いていいのかよくわからなくて……。』
そう口籠りながら答えると、「ふうん…」と意味深に相槌を打つ目と視線が合った。
「…貴女は、相変わらず受け身ですね。そんなこと、聞いていいに決まってるじゃないですか?
寧ろ、オレちゃんは……いつ名前さんに拒否されるのかって思っているのに。」
ブラックは重たい口調でそう呟くと、空になったプレートに視線を落として、その横で黒い革手を軽く握り締めていた。
「いつでも、聞けばいいんですよ。
あ、後…悪魔ですけど、魔界では一応、魔王の座をもらってます。」
『まっ…!?まおっ…うぅ…?』
素っ頓狂な声が出てしまった。
悪魔とは思っていたが、魔王とは…想像をはるかに超えていて、本当なのかはたまた冗談なのか?開いた口が暫く塞がらなかった。
「たまにいないのは、立場上やらないといけないこともあるので…魔界にいるんですよ。まあ、他にも好きでやってることもありますので、それでですかねぇ…?」
ネタ晴らし…と言う流れにならないため、本当のことなんだろうと思いなおすと更に衝撃で言葉に詰まってしまった。
コーヒーを喉に流し込み、一旦まとまらない思考の休息を取る。
苦みの強いブラックコーヒーのカフェインは、脳を刺激し、咥内に強く深い後味を残した。
『そ、そう、なんだ……ね。』
取り合えず、気にしていない様に平静を保って相槌を打つが、ソーサーに置くカップはブラックとはまるで反対で、ガチャンっと耳障りな音を立てて置いてしまった。
その様子にブラックはお腹を抱えて
「カカカッ、何を動揺してるんですかァ?❤」と笑いだした。
何も言えないでいると、
「……貴女は?どうしてオレちゃんが側に居ても、一度も拒否したり、嫌がったりしないんですか……?」
と静かに、真剣に目を見据えて問いかけてきた。
(…確かに、どうしてなんだろう?)
と、ふと自分の感情に目を向けてみる。
正面にいるブラックは、肘を付き気だるげに体制を崩して、片方の手をこっちに伸ばしてきた。
何かを求めるように、その黒い革手の指先が私の手に触れた。
カリっと尖った鉤爪が、少し食い込むものの肌を傷付けることはせずに、緩く指の腹であえて力加減を調整するようにして撫でてくる。
その仕草に、まるで悪戯に自分よりも弱いもので遊ぶ猫のような…そんな印象を受けた。
うまく答えを出せずに、暫く口を噤んでいると、
「………、今日は、してもいいんですか?❤」なんて聞いてくる。
『…はっ?な、な…何でっ?』
質問の方向が急に180度違うものへと変わり、また自分でも情けないぐらい素っ頓狂な声が出てしまった。
目の前のブラックは、にやりと口が裂けていつもの揶揄う表情へ戻っていた。
さっきまでの真剣な表情はどこへいったのか……。
戸惑いつつも、答えが出ないまま、あのまま時間が流れてもしょうがなかった、のは事実。
『我慢…して…っ』
と頬が熱くなり、俯いて答えた。
「我慢?…別にできますけど、…どうしてしなきゃいけないんです?❤」
といつもの食えない調子で返ってくる。
柔らかく弧を描いた視線が、私を捉えていた。
相変わらず、カリカリと鉤爪で私の手を弄んでいる。
真摯に答えるには、その先を想像できないといけなくて、私には“その先”が、今は、想像できなくて……。
中途半端に全身で飛び込んでいけなくて。
つまるところ、それは“確実な状態”ではないのかと思い迷ってしまった……。
だから、話を逸らしてくれて、良かった。
今はこのままで……答えなんて出さないまま、この日常を大事にしたくて、大事にされたいなって、思ってしまった。
To be continued.
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