このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

宇佐見菫子の憂鬱

宇佐見菫子の憂鬱
     ~~

 四月、それぞれさまざまな想いを胸にこの学校の校門を潜ったのだろうが、入学式やクラスの親睦会を経てからはなんとも言えない気だるい空気が教室には充ちていた。
 もうすぐゴールデンウィーク、その事実が生徒達を浮き足立たせて日々の授業も上の空な奴らが何人か出てきている。
 無論、俺はその何人かの一人なのだが。
「つまりだ、このGW前に……いや遅くともGW明けまでに彼女を作ることこそ、高校生活を謳歌するために一番重要なことであってだなぁ!」
 昼休み、お調子者の林田がよくわからない持論を展開していた。同じ中学からこの高校に入学した小野寺と俺は顔を合わせ、このお調子者が開きだした口を閉じるのをお互いに弁当をつつきながら待つことにした。
「いいか、二人とも。高校生活ってのは長いようで短いんだ。それは中学で三年間過ごしてきたからわかってくれると思う。楽しい時間ってのはいつまでも続く事はなく、日に日に目減りしていくってことを」
 林田もしゃべる合間合間に手元の弁当に箸を伸ばし、しっかりと飲み込んでから彼なりの思いの丈を俺たちにぶつけてくる。
「だからこそ、その生活に潤いを求めるためにはパートナーが、彼女が必要とは思わんかね、ウッチーよ」
 なぜそこで話を俺に振るんだ、林田よ。
「別に、そこまでして必死に作るものでもないんじゃないか?」
 高校に入って一ヶ月も経たないうちに彼女だ彼氏だなんて。なんというか少し急いでいる気がする。
「というよりも、林田はどうしてそこまでして彼女が欲しいんだい?」
 食事を終えた小野寺はお茶を飲みながらそんな疑問を林田に投げ掛けた。
「確かに高校生活は長いようで短いよ。中学生活で体験済みっていうのも頷ける。だって二年後には再度受験勉強が待ってるんだし。それだから遊べるうちに遊びたいっていうのは理解できるんだけどね」
 小野寺の正論に少しだけ乾いた笑いで返す。ようやく受験勉強という煩わしいものから解放されたというのに、すぐ先にまた待っているというのを考えなかったわけではないが、事実を突きつけられると目を逸らしたくなる。
「だからこそだ!そういう風に心が荒んでいくイベントがあるならば、先に心を十分に潤わそうって事なんだよ!これは別に、中学のダチが高校入学早々彼女を作って自慢されたからっていう嫉妬心から来るものじゃないからな!」
 あぁ……なるほど。そういうことだったのか。
 林田の本心を聞き、俺は奴の肩に手を置きとびきりの笑顔で言ってやった。
「林田……」
「ウッチー……お前ならわかってくれると信じていたぜ」
「ドンマイ。まあ、頑張ればお前にも相手が出きると俺は信じているぞ」
「そこは熱く男同士の友情的な握手をする場面じゃないのかよ!くそっ……彼女が出来たってお前らにはおこぼれもなにもやらないからなぁ!」
 まるで悪役のような台詞を残し教室を飛び出す林田。……といってもあと数分で午後の授業が始まるからすぐに戻ってくるんだけど。



 そんな感じの日常を甘受している間にも時計の針は目まぐるしく回っていき、気がついたら五月になっていた。
 といっても、五月になったからといって何が変わるでもなく。連休前に出された課題をギリギリで終わらせる程度には勉学に励み、それ以外はだらだらと、何となく休日を浪費し気がついたら連休が終わっている。
 そんな時間の進む早さに辟易しながら着々と近づく中間考査に向けてしっかりと勉強をするのだが……自宅だとどうも身が入らない。誘惑が多いからなのだろうか。
 学級日誌を職員室に提出し、今日の帰りは一人かとなんとも言えない寂しさを抱え、教室に置きっぱなしの鞄をとりに向かう。
 さっさと帰ってやることをやろうと決心し、教室の扉を開けようとしたところ、先に室内からガラッと開けられてしまった。
「……」
「……」
 急遽対面する事になってしまった相手の名前が思い出せない。確かにクラスメイトのはずなんだけど……。
「ちょっと、邪魔」
「あっ、ああ。わるい」
 刺々しい口調に思わずたじろぎ、譲るように道をあける。するとさも当然さのようにその女子生徒は階段の方へと歩いていった。
 そして姿が見えなくなった頃に、先ほどの女子が誰だったかを思い出す。
「宇佐見……だったか?」
 そういえば、アイツとは殆ど話したことがなかったなと思ったがクラスメイトならそのうち話すこともあるだろうと、その時はあまり気にせずに帰路につくことにした。
 来月には中間考査も待っている。遊んでいても目くじらを立てられないようにするには普段からそれなりに勉強をしないといけないからな。

. 
2/6ページ
スキ