如月センディング
『次はー町田ー、町田ー』
運良く急行の車内で座ることができ、電車の揺れに身を任せる。
夏ぐらいには寝落ちして新宿まで行ったなぁと思い出す。
「あれ、そういえば宇佐見ってどこで降りるんーーって……」
席が空いているため隣に座ったのだが、宇佐見の方は既に船を漕ぎだしている。
「……ん、なんか言った?」
「あ、いや……宇佐見はどこで降りるのかなって」
「……登戸」
眠そうな目を擦りながらポツリと彼女は呟く。
「そっか。着いたら起こすから、寝ても大丈夫だぞ」
「ん……」
こちらの言葉を聞き、直ぐに目を閉じる宇佐見。
ほんの少しくらいなら材料を買えるかなと思いながら車内に入ってくる人の流れを眺めていた。
電車が動き出し、少しすると宇佐見のいる方の方が少し重くなる。
「……って、コテコテな流れすぎるだろ」
完全に寝入ってしまった彼女が俺の肩を枕にしてしまっている。
良くもまあこの短時間に……と思ったが、学校での疲れが溜まっていたのと、車内の暖かさに加えて規則正しいリズムでの揺れで寝てしまった経験があるから強くは言えない。
ただ、宇佐見も女子である。だから一瞬でもドキッとしてしまったのは、男子高校せいたる所以だと思いたい。
そのせいもあってか、普段ならすぐに到着する区間がやけに長く感じた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『まもなく、登戸ー、登戸です』
実際には10分弱だが気恥ずかしさのせいか倍くらいに感じた時間も終わりの時を迎える。
「ほら、起きろ宇佐見。そろそろつくぞー」
空いている方の手を使い起こすために体を揺する。
「うぅん……あとごふん……」
「こんなところまでコテコテなんかい!起きろ!」
寝ぼけているのか寝起きが悪いのか、良くある返事を返してくる。
目は覚めたが意識は完全に覚醒してるわけではなさそうだ。
そうこうしているうちに、発車のベルが鳴る。ここを降りそびれると乗り換えが面倒になってしまうどころの騒ぎじゃない。
「あーもう!とりあえず、外出るぞ、外!」
まだ半目の宇佐見の手を取り立ち上がり、もう片方の手に二人分の荷物を持ちダッシュで車内からホームへと飛び出る。
『危険ですので、駆け込み乗車はお止めください』
駆け込み乗車じゃなく駆け出し降車なんだけどな!と心の中でどうでもいい突っ込みをいれつつ息を整える。
「……えーと、その、さ。掴まれてるところ痛くなってきたから、そろそろ離して欲しいんだけど」
「あっ!悪い……」
「いやいや!私が寝ぼけてたのが悪いんだから!」
慌てて手を離す。こっちが力んでいたのか、宇佐見は掴まれていた部分を擦っていた。
「けど、もう少し丁寧に起こして欲しかったかなーとかは思ったり……」
「丁寧に扱って欲しいなら、あんな分かりやすい寝言を言うなってーの」
右の人差し指で少し照れくさそうに頬を掻きながらそんな要望を口にする彼女にそっけ無く返す。
すると、「寝言……?えっ、私なに言ってたの!?」と慌てだした。
「そんな慌てるなって、あと五分なんて誰でも言ってそうなんだから」
「そんなコテコテの寝言を言ってたの!?……うっわー恥ずかしい……でも教室じゃなかったのが救いかしら?いや、救いね。うん!」
耳まで赤くなったと思いきやすぐさま冷静になる。「山内くん、この事を喋ったら……わかってるわよね?」
そしてこちらに圧力をかけてくる始末。
「わかってるというか、わざわざ言いふらしたりしないって。そんなことより行かなくて大丈夫なのか?まだバスとか残ってるだろうけど」
「へ、なんの話?」
こちらは乗り換えの電車待ちなので構わなかったが、宇佐見の方はバスやらあるのかもしれないと思い聞いてみると、キョトンとした顔で聞き返される。
「いや、降りる駅ここなんだろ?」
「あー、そういうことね。乗り換えるのに降りる駅はここよ……ってもしかしてそっちも各駅待ち?」
「そうだけど……ん?そっち『も』?」
話してみると最寄り駅が一つ隣の駅らしい。にしても半年以上サークル活動で一緒に行動してるのに、今の今まで普通のサークルや部活ですぐ行うであろうやり取りをしてこなかったというのも面白い話だ。
話しているうちに電車も来た。乗車し、扉の近くで残り数分の会話を続ける。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「そっか、だから夏にあの公園にいたのか」
あの時はそこまで気にしてなかったが、地元と言われれば合点が行く。
「けど、近いからって何が変わるわけでもないわよ。今まで通り。っと、じゃあ私ここで降りるから」
「おう、それじゃあな」
先に降りる宇佐見の背にそう投げ掛ける。
「……またね」
そう彼女が口にするのと電車のドアが閉まるのは同時だった。
「それにしても、こんなこともあるもんなんだな……」
もともと同じ中学からの小野寺は外すとしても、高校で知り合ったのが地元一緒とは……。
「でも、一駅違うんだから、そうそう生活圏被ることないだろ」
あの公園で会ったのだけはイレギュラーとして、そう何度も地元で会うことはないはずだ。
そうだ、そうだ。と一人で納得する。丁度駅についたようだ。
ホームに降りるのと同時に冷たい風が吹く。
大丈夫と思っていたが、予想以上の冷え込みでブルッと体を震わせてしまった。
「……あー、こりゃ買い出し明日にしとこ」
遅くなればより寒くなる。風邪を引いちゃもとも子もない。
寄り道をしないと決めて漕ぎ出したペダルは、普段以上に軽く感じた。
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運良く急行の車内で座ることができ、電車の揺れに身を任せる。
夏ぐらいには寝落ちして新宿まで行ったなぁと思い出す。
「あれ、そういえば宇佐見ってどこで降りるんーーって……」
席が空いているため隣に座ったのだが、宇佐見の方は既に船を漕ぎだしている。
「……ん、なんか言った?」
「あ、いや……宇佐見はどこで降りるのかなって」
「……登戸」
眠そうな目を擦りながらポツリと彼女は呟く。
「そっか。着いたら起こすから、寝ても大丈夫だぞ」
「ん……」
こちらの言葉を聞き、直ぐに目を閉じる宇佐見。
ほんの少しくらいなら材料を買えるかなと思いながら車内に入ってくる人の流れを眺めていた。
電車が動き出し、少しすると宇佐見のいる方の方が少し重くなる。
「……って、コテコテな流れすぎるだろ」
完全に寝入ってしまった彼女が俺の肩を枕にしてしまっている。
良くもまあこの短時間に……と思ったが、学校での疲れが溜まっていたのと、車内の暖かさに加えて規則正しいリズムでの揺れで寝てしまった経験があるから強くは言えない。
ただ、宇佐見も女子である。だから一瞬でもドキッとしてしまったのは、男子高校せいたる所以だと思いたい。
そのせいもあってか、普段ならすぐに到着する区間がやけに長く感じた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『まもなく、登戸ー、登戸です』
実際には10分弱だが気恥ずかしさのせいか倍くらいに感じた時間も終わりの時を迎える。
「ほら、起きろ宇佐見。そろそろつくぞー」
空いている方の手を使い起こすために体を揺する。
「うぅん……あとごふん……」
「こんなところまでコテコテなんかい!起きろ!」
寝ぼけているのか寝起きが悪いのか、良くある返事を返してくる。
目は覚めたが意識は完全に覚醒してるわけではなさそうだ。
そうこうしているうちに、発車のベルが鳴る。ここを降りそびれると乗り換えが面倒になってしまうどころの騒ぎじゃない。
「あーもう!とりあえず、外出るぞ、外!」
まだ半目の宇佐見の手を取り立ち上がり、もう片方の手に二人分の荷物を持ちダッシュで車内からホームへと飛び出る。
『危険ですので、駆け込み乗車はお止めください』
駆け込み乗車じゃなく駆け出し降車なんだけどな!と心の中でどうでもいい突っ込みをいれつつ息を整える。
「……えーと、その、さ。掴まれてるところ痛くなってきたから、そろそろ離して欲しいんだけど」
「あっ!悪い……」
「いやいや!私が寝ぼけてたのが悪いんだから!」
慌てて手を離す。こっちが力んでいたのか、宇佐見は掴まれていた部分を擦っていた。
「けど、もう少し丁寧に起こして欲しかったかなーとかは思ったり……」
「丁寧に扱って欲しいなら、あんな分かりやすい寝言を言うなってーの」
右の人差し指で少し照れくさそうに頬を掻きながらそんな要望を口にする彼女にそっけ無く返す。
すると、「寝言……?えっ、私なに言ってたの!?」と慌てだした。
「そんな慌てるなって、あと五分なんて誰でも言ってそうなんだから」
「そんなコテコテの寝言を言ってたの!?……うっわー恥ずかしい……でも教室じゃなかったのが救いかしら?いや、救いね。うん!」
耳まで赤くなったと思いきやすぐさま冷静になる。「山内くん、この事を喋ったら……わかってるわよね?」
そしてこちらに圧力をかけてくる始末。
「わかってるというか、わざわざ言いふらしたりしないって。そんなことより行かなくて大丈夫なのか?まだバスとか残ってるだろうけど」
「へ、なんの話?」
こちらは乗り換えの電車待ちなので構わなかったが、宇佐見の方はバスやらあるのかもしれないと思い聞いてみると、キョトンとした顔で聞き返される。
「いや、降りる駅ここなんだろ?」
「あー、そういうことね。乗り換えるのに降りる駅はここよ……ってもしかしてそっちも各駅待ち?」
「そうだけど……ん?そっち『も』?」
話してみると最寄り駅が一つ隣の駅らしい。にしても半年以上サークル活動で一緒に行動してるのに、今の今まで普通のサークルや部活ですぐ行うであろうやり取りをしてこなかったというのも面白い話だ。
話しているうちに電車も来た。乗車し、扉の近くで残り数分の会話を続ける。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「そっか、だから夏にあの公園にいたのか」
あの時はそこまで気にしてなかったが、地元と言われれば合点が行く。
「けど、近いからって何が変わるわけでもないわよ。今まで通り。っと、じゃあ私ここで降りるから」
「おう、それじゃあな」
先に降りる宇佐見の背にそう投げ掛ける。
「……またね」
そう彼女が口にするのと電車のドアが閉まるのは同時だった。
「それにしても、こんなこともあるもんなんだな……」
もともと同じ中学からの小野寺は外すとしても、高校で知り合ったのが地元一緒とは……。
「でも、一駅違うんだから、そうそう生活圏被ることないだろ」
あの公園で会ったのだけはイレギュラーとして、そう何度も地元で会うことはないはずだ。
そうだ、そうだ。と一人で納得する。丁度駅についたようだ。
ホームに降りるのと同時に冷たい風が吹く。
大丈夫と思っていたが、予想以上の冷え込みでブルッと体を震わせてしまった。
「……あー、こりゃ買い出し明日にしとこ」
遅くなればより寒くなる。風邪を引いちゃもとも子もない。
寄り道をしないと決めて漕ぎ出したペダルは、普段以上に軽く感じた。
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